ため池に水上太陽光発電、香川県で建設ラッシュがなぜ続く【エネルギー自由化コラム】
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都道府県面積当たりのため池数が全国で最も多い香川県で、ため池の水面を利用した水上太陽光発電の設置が相次いでいます。太陽光発電は適地が限られるうえ、森林伐採など環境破壊に対する住民の目が厳しくなっていますが、ため池ならこうした懸念を解消できることから、建設ラッシュの様相も示しています。
三木町の女井間池に2,822キロワットの新施設
香川県三木町池戸の高松琴平電気鉄道農学部前駅から北へ歩いて約15分、荒木橋を通って新川を渡ると、目の前に農業用ため池が姿を現します。
土手に上がって水面を除くと、ちょうどため池の中央部で黒光りする太陽光パネルが夏の日差しを浴びて輝いています。
このため池は満水面積5.75ヘクタールの女井間池(めいまいけ)。周辺の農地に農業用水を供給していますが、2019年末に三井住友建設が水上太陽光発電所を整備し、1月から四国電力に1キロワット時当たり税抜き18円で電力販売しています。
パネル出力は2,822キロワット。三井住友建設が開発した水上太陽光フロートシステムの「プカット」を利用、同じ三木町で2017年に完成した平木尾池水上太陽光発電所に次ぐ2例目の直営水上発電所となりました。普段使われることがないため池の水面が、電気を生み出しているのです。
近く3件目の自社直営発電所稼働へ
三井住友建設の水上太陽光発電所の取り組みは2014年、香川県から委託されたため池を使ったフロートシステムと太陽光発電の実証実験をきっかけに本格的に動き始めました。自社開発のフロートシステムは2015年から販売を始めています。
2017年には台湾に現地法人を設立し、フロートシステムの売り込みをスタートさせました。これまでに自社直営を含め、国内6件、海外4件の採用実績があります。近く高松市で3件目の自社直営水上太陽光発電所を稼働させる計画です。
三井住友建設は「中期経営計画に事業領域の拡大を掲げ、再生可能エネルギー事業を推進している。経営理念に掲げる地球環境への貢献の一環でもあり、水上太陽光発電を通じて地球温暖化対策の力になりたい」としています。
都道府県面積当たりのため池数は香川が全国一
三木町は人口約2万7,000人。香川県東部に位置し、高松市のベッドタウンとなっているほか、香川大学のキャンパスがあるため、学生の街として知られています。古くから地域を支えてきた基幹産業は農業ですが、町内に大きな河川がないため、各所に設けられたため池が農業用水を供給してきました。
こうした事情は香川県全体に共通したことです。農水省中国四国農政局によると、香川県内にあるため池の数は1万4,619カ所。兵庫県の4万4,207カ所、広島県の2万1,010カ所に次いで全国都道府県で3位です。
これを都道府県面積1平方キロ当たりで計算すると、香川県は7.79カ所で全国トップ。2位の大阪府5.93カ所、3位の兵庫県5.27カ所を大きく上回っています。グーグルマップの航空写真で香川県をながめると、ため池の多さに驚かされます。
出典:農林水産省中国四国農政局ホームページ
雨が少ない気候で太陽光発電の適地に
瀬戸内海気候で雨が少なく、大きな川が存在しない香川県で、どうやって農業に必要な水を確保すればいいのか、先人たちの知恵を集めた結果がため池です。現在は徳島県から吉野川の水が送られ、昔ほど水不足に苦しむことはなくなりましたが、それでも雨が少ない年はしばしば取水制限に悩まされています。
雨が少ないことは農業にとって大きなハンディです。しかし、その分日照時間が長くなります。香川県は太陽光発電にとっては申し分のない環境ということができるでしょう。
水上太陽光発電所が香川県内で相次いで整備されているのはこのためです。県東部の三木町や県央部の高松市を中心に設置場所は全県に広がっています。香川県農村整備課は「運転を始めている施設は15カ所以上に及ぶ。さらに、整備計画も次々に生まれている」と説明しました。
名称 | 所在地 | 事業者 |
---|---|---|
女井間池水上太陽光発電所 | 三木町 | 三井住友建設 |
小田池水上太陽光発電所 | 高松市 | 太陽グリーンエナジー |
御田神辺地ソーラー発電所 | さぬき市 | 香川水上ソーラー第二 |
平木尾池水上太陽光発電所 | 三木町 | 三井住友建設 |
東王田池ソーラー発電所 | さぬき市 | 日本アジア投資 |
渡池太陽光発電所 | 高松市 | シエル・テール・ジャパン |
メリットは土地造成不要、夏の発電効率低下抑制など
水上太陽光発電には、いくつかのメリットがあります。その1つが土地造成の必要がないことです。山林に設置するとすれば木を伐採し、伐根しなければなりませんが、ため池の水面ならフロート式の太陽光発電を浮かべるだけで済みます。工期も地上型より短くすることが可能です。
一般に太陽光発電は5月ごろに最も発電量が多くなり、真夏はパネルの温度が上がりすぎて発電効率が落ちてしまいます。ところが、水上なら水面の温度が地上より低いため、真夏の発電効率低下を抑えることができます。
ため池は市町村が所有し、地元の水利組合が管理していますが、市町村には行政財産の使用料、水利組合には水面利用料が入ります。財政の厳しい香川県の自治体や水利組合にとって、貴重な財源となるのです。
坂出市では景観破壊に懸念の声も
ただ、デメリットも残ります。景観を損なうと考える周辺住民がいるのが1つです。さまざまなテーマへのオンライン署名を集め、届け出るウェブサイト「チェンジ」では、景観破壊だとして問題視するキャンペーンが立ち上げられ、計画反対に賛同する約2,000人の署名が2月、香川県と坂出市に提出されました。
キャンペーンを立ち上げたのは地元の女性です。計画場所となる坂出市川津町の蓮池は美しい蓮の花が咲き、讃岐富士と呼ばれる飯野山が水面に映る景観で知られます。それなのに、計画されている水上太陽光発電所建設で景観が損なわれるとして計画中止を求めたのです。
ため池は地元の行政財産です。これを営利目的で活用するわけですから、市町村や水利組合との契約だけでなく、事業者は周辺住民にしっかりと計画内容を説明し、理解を求める作業を怠ってはならないでしょう。
台風の強風対策も今後の課題に
もう1つのデメリットとしては強風への耐性が挙げられます。千葉県市原市山倉の山倉ダムでは2019年9月、台風15号の強風が原因とみられる火災が発生しました。フロートシステムはアンカーで池の底につなぎ留められていますが、強風で大きな波が発生すればパネルが互いにぶつかり合い、破損する可能性を否定できないのです。
香川県内ではこうしたケースはまだありませんが、四国は台風銀座ともいえる場所です。同様の事例が起きないとはいい切れません。
水上太陽光発電に対し、地上型のようなガイドラインは存在せず、事業者の技術水準に任せているのが実情です。周辺住民の不安を解消するため、自治体が事故防止策を事業者に求めることが必要となりそうです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。