福井市企業局の有識者会議がガス事業の民間譲渡を答申へ、人口減少で維持困難と判断【エネルギー自由化コラム】
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福井県福井市の公営ガス事業のあり方を検討していた有識者会議が、民間への事業譲渡を答申する方針を固めました。人口減少による販売量の落ち込みが予想されることから、経営の自由度が乏しい公営維持を困難と判断したもようです。福井市は答申を待って民間譲渡の手続きに入る方向で、早ければ2020年度にも民営化される可能性が浮上しました。4月に都市ガス小売りの全面自由化がスタートしたこともあり、今後も他の地方自治体で公営ガスの民営化が続きそうです。
早ければ2018年度に譲渡先を決め、2020年度から民営化
市の有識者会議は学識経験者や消費者らで構成され、4月から公営ガス事業のあり方を議論してきました。7月の会合で民間への事業譲渡の方向が打ち出されましたが、8月末の会合で民間譲渡を答申することで一致しました。
有識者会議は
- 民間への事業譲渡
- 公営での事業継続
- 公設民営方式の導入
- 第三セクター方式の導入
の4形態を検討してきました。しかし、今後の人口減少を考えると、将来の経営悪化が予想されることから、公募で選んだ民間企業に事業譲渡し、民営化するのが最善と判断したようです。
年内にも市の企業管理者へ答申する予定で、東村新一市長が答申を踏まえて本年度中に最終判断を下す見込み。早ければ2018年度に譲渡先を決めます。市は譲渡先として都市ガス販売の実績を持つ企業、募集は公募型プロポーザル方式を想定しています。
公募型プロポーザル方式とは
プロポーザル方式は高度で専門的な技術を要求される業務について、技術提案書の提出を求めて最適な業者を選定する方式。この手続きを公募で進めた場合、公募型プロポーザル方式と呼ばれる。
オール電化に押され、家庭用や商業用の販売量が急減
1998年度 | 2003年度 | 2008年度 | 2013年度 | 2015年度 | |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 30,398 | 29,309 | 25,776 | 22,682 | 21,572 |
普及率(%) | 69.1 | 64.6 | 55.4 | 47.9 | 45.2 |
販売量(㎥/46MJ) | 14,363 | 14,197 | 22,113 | 20,031 | 19,103 |
売上額(100万円) | 2,364 | 2,439 | 3,290 | 3,217 | 2,982 |
純損益(100万円) | 20 | △744 | △32 | 241 | 363 |
累積欠損金(100万円) | △50 | △1,269 | △3,019 | △1,380 | △499 |
職員数(人) | 75 | 64 | 44 | 36 | 35 |
総資産額(100万円) | 12,167 | 13,767 | 8,579 | 8,016 | 6,976 |
企業債等残高(100万円) | 7,787 | 9,115 | 7,985 | 6,902 | 6,434 |
出典:福井市企業局「福井市ガス事業経営戦略」、△はマイナス
市のガス事業は明治時代末の1912年にスタートし、市中心部約31.5平方キロをガスの供給区域としています。しかし、ガスの販売量は長期にわたって減少が続いています。供給区域内の普及率はかつて70%に達したこともありますが、2008年度55.4%、2013年度47.9%、2015年度45.2%と落ち込みました。
減少の大半が家庭用や商業用です。販売量でみると、2005年度からの10年間で家庭用が36.6%、商業用が30.7%少なくなりました。工業用や公共・医療用の販売量は伸びていますが、全体の契約件数、販売量とも減少しているのです。
北陸地方は割安な電気料金を設定して住宅のオール電化を推進する動きが広がっています。市企業局はこの影響で家庭や商業用のガス需要が低迷したとみています。
2028年度の予測販売量は2015年度の26%減
用途 | 項目 | 2015年度 | 2028年度 | 増減 | 増減率 |
---|---|---|---|---|---|
家庭用 | 件数 | 19,506 | 14,653 | △4,853 | △24.9% |
販売量(1,000㎥) | 5,303 | 3,235 | △2,068 | △39.0% | |
商業用 | 件数 | 1,837 | 1,310 | △527 | △28.7% |
販売量(1,000㎥) | 1,974 | 1,344 | △630 | △31.9% | |
工業用 | 件数 | 5 | 4 | △1 | △20.0% |
販売量(1,000㎥) | 8,478 | 5,995 | △2,483 | △29.3% | |
公共・医療用 | 件数 | 457 | 449 | △8 | △1.8% |
販売量(1,000㎥) | 3,348 | 3,556 | 208 | 6.2% | |
合計 | 件数 | 21,805 | 16,416 | △5,389 | △24.7% |
販売量(1,000㎥) | 19,104 | 14,130 | △4,974 | △26.0% |
出典:福井市企業局「福井市ガス事業経営戦略」、△はマイナス
市の人口は9月現在で26万5,000人ですが、国立社会保障・人口問題研究所は2040年に21万6,000人まで減少すると予測しています。都市ガス供給区域内の人口も市全体と同様に減少傾向が続くとみられます。
その結果、市企業局は家庭用で2015年度に1万9,506件あった契約件数が2028年度に1万4,653件に減少すると予想しました。これに伴い、販売量も2015年度の530万立方メートルが2028年度に324万立方メートルに落ち込むとしています。
商業、工業用などを含めた全契約件数で見ても24.7%、販売量で26.0%の減少が予測されています。導管が関東や関西の大都市圏とつながっていないため、市内への新規参入の可能性は低いとみられていますが、ガス事業を取り巻く環境は厳しさを増しそうなのです。
先行きに明るさが見えない公営ガスの財政状況
2016年度 | 2028年度 | |
---|---|---|
収益 | 30.4 | 23.3 |
うち一般ガス売上 | 28.1 | 21.9 |
出典:福井市企業局「福井市ガス事業経営戦略」
販売量の減少は収入ダウンにつながります。ガス事業の収益は2016年度の30.4億円が2028年度に23.3億円に落ち込む見通し。ガス導管の耐震化などで2028年度までに61億円の投資が必要なこともあり、財政状況も先行きが明るいといえない状態です。
収益で費用をどれだけまかなえるかを示す経常収支比率は115%で、公営ガス平均の103%を上回っています。自己資本の取り崩しや料金値上げで累積欠損の解消にも努めてきましたが、それでも2015年度で4億9,900万円の累積欠損金を抱え、企業債の発行残高も他の公営ガスに比べて多くなっています。
職員は業務委託の拡大などから削減を進めた結果、技術職員の平均年齢50.1歳といういびつな構成になりました。新規採用で若返りを図るとともに、技術の伝承も急いで進めなければなりません。課題が山積しているのが現実で、これらの点も有識者会議が民間への事業譲渡を求める一因になったようです。
市企業局経営管理課は「正式に答申を受けるまで市として対応することはできないが、答申後の市長の判断に従い、適切に対処したい」と述べました。
4月のガス自由化で公営ガス民営化に弾み
総務省によると、自治体が運営する公営ガスは2016年度で全国に26あります。ガス自由化前は地域独占で販売でき、総括原価方式という営業費用に事業報酬を足した十分に利益の出る額でガス料金が設定され、安定した経営をすることができました。
しかし、天然ガスへの転換など設備投資が多額になったうえ、オール電化との競争が激しさを増したこともあり、小規模事業者を中心に民間企業に事業譲渡するところが相次ぎ、2003年度以降、福井県越前市や新潟県長岡市、京都府福知山市など約20の公営ガスが民営化するなど、ピーク時に75あった公営ガスが3分の1ほどになっています。
そこへ2017年4月の都市ガス小売り全面自由化がやってきたのです。国内はガス導管が電力網のように津々浦々まで整備されているわけではありませんから、地方への新規参入は先の話と考えられますが、民間との競合を意識せざるを得ない状況に追い込まれたのです。
地方の急激な人口減少も民営化のきっかけに
国の料金規制がなくなっても、公営ガスは料金変更などで議会の承認が欠かせません。区域外への供給やガス以外の事業進出にも制約があります。民間のような機動的な対応を取りにくく、民間と競ううえで大きなハンディを負うことになります。このため、ガス自由化後、公営ガスの民営化に弾みがついたのです。
さらに、急激な人口減少も公営ガスにとって頭が痛いところです。日本全体では既に人口減少に入りました。特に地方は急激な減少となり、公営ガス側は将来の顧客減少を前提に経営計画を立てなければならなくなっています。
供給区域以外に導管網を広げ、新たな顧客を確保するには、多額の費用がかかります。その結果、人口減少が公営ガスの事業継続を妨げているのです。
民間譲渡や官民出資の新会社など全国の自治体が新対応
群馬県富岡市は2017年4月、ガス事業を埼玉県のガス業者堀川産業に譲渡しました。富岡市は2015年度で市内7,200の一般家庭や事業所へ都市ガスを販売していましたが、現在は堀川産業が都市ガス供給を引き継いでいます。
新潟県柏崎市は地元の北陸ガスと2017年3月、譲渡契約を結びました。柏崎市は2015年度で市内2万8,000の家庭、事業所に都市ガスを販売していますが、今後、1年間かけて引き継ぎを進め、2018年4月に民営化する見通しです。
公営ガスとしては全国で2番目に大きい滋賀県大津市は、官民共同出資の新会社に都市ガスを含む公共インフラ事業を任せる方針を打ち出しました。大阪ガスと関西電力がパートナーに名乗りを上げるなど業界の動きも激しさを増しています。
公営ガス最大手の仙台市も一時凍結していた民営化の検討を再開しています。これからも公営ガスの動向から目を離せない状況が続きそうです。