迫る「電力の2019年問題」、契約切れの太陽光発電はどうなる【エネルギー自由化コラム】
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再生可能エネルギーの固定価格買取制度に「電力の2019年問題」が迫っています。2009年の余剰電力買取制度スタート時点から太陽光発電の電力を売電していた世帯の契約が2019年度末で終了するためで、契約終了世帯は太陽光発電協会の累計設置数から推定して50万件前後に達するとみられています。契約が終わった住宅用太陽光発電はどうなるのでしょうか。
設置者は売電期間の終了に不安感
中国電力と契約した売電価格は1キロワット時当たり48円。出力220ワットの太陽光パネルが屋根に敷き詰められ、昼間の余剰電力が買い取られています。毎月の電気代が大幅に安くなったほか、売電収入から夜間の電力購入代を差し引いた年間の収入も10万円を下ったことがありません。
真冬は電気代が売電収入を上回りますが、それ以外は売電収入が電気代を超えます。設置当時、2人の子どもを県外の大学に通わせていただけに、家計には大助かりだったそうです。
消費者の暮らしに少なからぬ影響
しかし、契約は2020年度まで。その後は売電できなくなる可能性があることを知り、心配しています。設置にかかった費用は約300万円。その際、行政の補助を受けましたが、全額を回収できたわけではありません。
今年になって蓄電池や家庭用燃料電池、電気自動車のパンフレットを集め始めました。売電できなくなった場合に備え、余剰電力をどう活用すべきか検討するためです。
「売電価格が下がっても、契約延長されると思っていた。これから年金生活に入るだけに、当てにしていた収入がなくなるのは困る」と小林さん。電力の2019年問題は消費者の暮らしにも少なからぬ影響を与える可能性があるのです。
余剰電力買取制度は2009年にスタート
出力10キロワット未満の住宅用太陽光発電の固定価格買い取りは2009年、余剰電力買取制度としてスタートしました。当時の買取価格は1キロワット時当たり48円で、10年間は開始時点の価格で買い取りされます。再生可能エネルギー普及が政府の狙いで、国民が関心を持つように買取価格を家庭用電気料金のざっと2倍に設定しました。
日本は20世紀まで太陽光発電導入量、パネル生産量とも世界一でした。しかし、余剰電力買取制度以前は電力会社の自主的な買い取りにすぎず、買取価格も家庭の電気代と同水準だったため、普及が進みませんでした。
これに対し、ドイツは1キロワット時当たり80円ほどの高値で固定価格買取制度を始め、一気に導入量で日本を抜き去りました。日本よりいち早く、再生可能エネルギーの時代が訪れたのです。
震災を機に太陽光発電設置家庭が急増
日本では、2011年の東日本大震災を契機にし、2012年から固定価格買取制度が始まります。脱原発を求める声に応えるとともに、再生可能エネルギーに関連する産業の振興を目指したわけです。
買取価格は設備導入コストが下がるのに伴い、徐々に引き下げられましたが、それでも太陽光発電を設置すれば、利益が上がることに違いはありません。このため、太陽光発電を設置する家庭が相次ぎました。
買取義務終了後は新たな契約か、自家消費に
しかし、10年の期間が終了すると、電力会社に買取義務はなくなります。太陽光発電の設置家庭が電力会社と交渉し、個別に新契約を結ぶことは可能ですが、電力会社が契約に応じなければ、買い手不在となります。関西電力が「これから検討したい」とするなど、電力会社はまだ対応を決めていません。
経済産業省は買い手不在の余剰電力について、電力会社に無償で引き受けるよう要請する方針です。2017年末に開かれた総合資源エネルギー調査会の小委員会でこの方針が了承されました。
太陽光発電の設置者は契約期間が終了すると、余剰電力を自家消費するか、どこかと売電契約するかを選ばなければなりません。売電契約するとしても価格は1キロワット時当たり10円に満たない低単価になることが予想されます。
蓄電池メーカーにはビジネスチャンス
ただ、電力業界や電機メーカーには、新たなビジネスチャンスになる可能性があります。自前の発電所を持たない新電力は、低価格で余剰電力を調達する好機が訪れます。積水ハウスは契約期間が終了した家庭から電力を買い、事業用に使う方針を打ち出しています。
太陽光発電の設置家庭が昼間の余剰電力を夜間に使用するなら、電気を貯める蓄電池が必要です。パナソニックや三菱電機は今後、蓄電池が有望な市場になると見越しています。オリックスなど蓄電池のレンタル需要を期待し、商戦に備える企業も出てきました。
蓄電池の代替品として電気自動車も有望になってくるといわれています。余剰電力で電気自動車を充電するわけで、日産など自動車メーカーは売り込みに余念がありません。
余剰電力活用法も検討課題に急浮上
蓄電池を導入していない家庭の余剰電力をどう有効活用するかも、考えなければならない課題でしょう。東京電力エナジーパートナー(EP)は、住宅用太陽光発電の余剰電力を預かる実証実験に7月から入ります。
実証実験はトヨタウッドユーホームと共同で栃木県内3カ所の分譲地で戸建住宅を対象に進める予定です。太陽光発電を導入している家庭から消費電力量と発電量のデータを提供してもらい、住宅で使い切れない余剰電力を東電EPが一時的に預かったとみなします。
預かった電力はその家庭が実際に使うときに返すほか、他の家庭とシェアできるようにし、その仕組みや料金体系を構築する実験です。東電EPは「2019年3月までの実証実験結果を見て、活用方法を考えたい」としていますが、実用化されれば太陽光発電設置家庭に朗報となりそうです。
環境省は二酸化炭素削減価値の取引制度創設を検討
太陽光発電は、発電時の二酸化炭素発生が全くありません。火力発電で、同じ電気量をつくったとしたときに、発生する二酸化炭素の量が、二酸化炭素削減価値というものです。削減価値を家庭が売り出し、企業が購入できる取引制度の創設を目指しています。2018年度からデジタルグリッド、電気シェアリングの2社でモデル事業を行い、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用して削減価値を瞬時で取引できるシステムの検討を進めます。
企業が削減価値を手に入れ、二酸化炭素排出量を減らす取り組みには、国のJクレジット制度やグリーン電力証書がありますが、ともに認定手続きが必要なため、企業が削減価値を取得するまでに時間がかかっていました。
このシステムが実用化されれば、再生可能エネルギーの自家消費が電気を売るだけでなく、二酸化炭素削減価値も売れるようになれば、太陽光発電の普及が加速することも考えられます。環境省地球温暖化対策事業室は「モデル事業は初年度、実現可能性を確認し、審査結果がよければ次年度からより具体的な検討に進みたい」と話しました。
電力の2019年問題は必ずしも問題があるだけではありません。そこにはさまざまなビジネスチャンスや可能性が広がっているのです。消費者も企業も固定価格買取制度に頼らない太陽光発電の活用法を考える契機としなければなりません。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。