企業の自家消費型水上太陽光発電、再エネ拡大に向けて環境省が補助制度【エネルギー自由化コラム】
環境省は企業や地方自治体、公益法人などを対象に、自家消費型の水上太陽光発電の導入を支援する補助事業の募集を始めました。2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)に向け、再生可能エネルギーの導入に拍車をかけるためで、最大で1億円の補助金を交付し、導入を促します。
交付額は対象経費の3分の1、上限は1億円
補助金は建物の屋根や空き地以外の場所に自家消費型の太陽光発電設備、蓄電池を導入する企業などを支援するものです。交付額は補助対象経費の3分の1で、上限が1億円。太陽光発電設備の設置場所としてはため池など水上のほか、駐車場に簡易屋根を設けたカーポートが想定されています。
環境省は水上やカーポートへの太陽光発電導入に補助金を出すのは初めてとしています。募集は3次に分けて進める予定。現在は第1次募集を終え、第2次募集に入っています。7~8月には第3次募集を進め、補助金の交付先を決めます。事業の執行団体は環境省の委託を受けた大阪市都島区にある環境技術普及促進協会が務めます。
補助の要件としては、
- 導入場所の敷地内で50%以上の自家消費が可能
- この補助金を受けることにより、導入費用が総出力10キロワット未満で1キロワット時当たり30.08万円、10~50キロワットで23.82万円、50キロワット以上で19.80万円を下回る
- パワーコンディショナーの出力合計が5キロワット以上
- 固定価格買取制度の売電をしない
- 業務用の定置用蓄電池は4,800アンペア時・セル以上
などが定められています。
水上太陽光 | 太陽光発電モジュール、架台、フロート、ブリッジ、接続箱、パワーコンディショナー、配線 |
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太陽光発電一体型カーポート | 太陽光発電モジュール一体型カーポート、基礎、接続箱、パワーコンディショナー、配線 |
太陽光発電搭載型カーポート | 太陽光発電モジュール、架台、カーポート(太陽光発電モジュールの土台となるものに限る)、基礎、接続箱、パワーコンディショナー、配線 |
その他 | 太陽光発電搭載型カーポート、太陽光発電一体型カーポートおよび水上太陽光と同程度の補助対象範囲として協会が認める設備 |
定置用蓄電池 | 業務用の場合4,800Ah・セル以上かつ目標価格(工事費込み)21万円/kWh、家庭用の場合4,800Ah・セル未満かつ目標価格(工事費込み)16.5万円/kWhの条件を満たすもの |
カーボンニュートラル実現に再エネ推進が不可欠
企業や自治体では、電力コストの削減を目指して太陽光発電の導入が進んできました。しかし、その大半は工場や庁舎など建物の屋根や敷地内の未利用地に設置されています。それ以外の場所への設置はまだ十分に進んでいません。
政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、大量の二酸化炭素排出が国際問題になっている石炭火力発電所について、旧式機の縮小を進める意向ですが、原子力発電所の新増設は国民の理解を得られないとして積極的に進めない方向です。
火力発電の代替エネルギーとなる水素やアンモニアは現在、技術開発を進めている段階。カーボンニュートラルを実現するためには、再エネの大幅拡大がどうしても必要になってきます。このため、これまで十分に活用しきれていない水上などに太陽光発電の導入を推奨しているわけです。
環境省地球温暖化対策課は「これまで補助金を出してこなかった部分に新しい制度を設けることで再エネの推進と二酸化炭素の排出削減によりいっそうの力を入れたい」と補助金導入の狙いを語りました。
香川や埼玉などで徐々に広がる水上太陽光発電
水上太陽光発電は農業用のため池が多い香川県や兵庫県、埼玉県などを中心に全国で少しずつ増えてきました。特に面積当たりのため池数が全国で最も多い香川県は、太陽グリーンエナジー、三井住友建設、シェル・テール・ジャパンなど多くの企業が参入し、水上太陽光発電の建設ラッシュが続いています。
香川県坂出市川津町にある農業用ため池の蓮池では4月、建設大手の三井住友建設が整備した出力1,957キロワットの蓮池水上太陽光発電所が運転を始めました。三井住友建設にとって、香川県三木町で運転中の平木尾池水上太陽光発電所、女井間池水上太陽光発電所に次ぐ3例目の直営発電所です。作った電力は四国電力に売電されています。
三井住友建設は香川県の委託を受け、自社でフロートシステムを開発しており、「経営理念に掲げる地球環境への貢献の一環として、水上太陽光発電事業を通じて二酸化炭素排出削減に努めたい」としています。
香川県坂出市の蓮池で運転を始めた三井住友建設の蓮池水上太陽光発電所(三井住友建設提供)
スバルや太陽ホールディングスも既に導入
自動車メーカーのSUBARU(スバル)は2020年5月、群馬県大泉町の大泉工場内にある遊水池に出力5メガワットの自家消費型として国内最大級となる水上太陽光発電を導入しました。
これにより、大泉工場が年間に排出する二酸化炭素の約2%が削減できます。スバルは2017年に改定した環境方針で持続可能な社会実現を掲げており、「すべての企業活動で二酸化炭素排出量の削減を進めたい」と意気込んでいます。
化学メーカーの太陽ホールディングスグループは2020年7月、子会社の太陽グリーンエナジーが埼玉県川島町曲師の浅間貯水池に水上太陽光発電所を開設しました。出力は759キロワット。一般家庭664世帯分の年間使用電力量に相当します。
太陽ホールディングスグループは埼玉県、兵庫県、香川県など7県で計13基の水上太陽光発電所を持ち、年間想定発電量は22ギガワット時に達します。太陽ホールディングスは「国内のエレクトロニクス事業に必要な電力消費量以上のエネルギーを発電できている」と述べました。
埼玉県川島町の浅間貯水池に設置された太陽ホールディングスグループの水上太陽光発電所(太陽ホールディングス提供)
用地買収不要でフロート浮かべるだけで設置可能
多くの企業が水上太陽光発電に乗り出し始めたのは、メリットが大きいからです。売電のための山林開発は自然破壊だとして近隣の住民が反対するケースが相次いでいます。大規模開発になると、事業者側の費用負担も決して軽くありません。
これに対し、水上太陽光発電はため池などにフロート式の太陽光発電を浮かべるだけで設置でき、土地の造成や山林の伐採などが必要ありません。ため池の所有は大半が市町村。山林などと異なり、用地買収の手続きが不要です。市町村やため池を管理する水利組合に収入が入るとして、積極的に貸し出しに応じるところも増えています。
太陽光発電は夏場になると、パネルの温度が上がりすぎて発電効率を落とします。しかし、水上に設置した太陽光発電は水が冷却装置の役割を果たし、地上に設置した設備より発電効率を低下させずに済みます。
太陽光拡大へ真価問われる経済界
2050年のカーボンニュートラルに向け、太陽光発電を増設するとともに、地球環境への貢献で日本企業が国際的な評価を得るには、従来の建物の屋根や空き地への設置だけでは不十分かもしれません。考えられる限りの努力を重ね、二酸化炭素排出削減を示す必要がありそうです。
世界経済はコロナ禍で大打撃を受けています。日本企業も同様です。環境省の補助制度創設をきっかけにどこまで太陽光発電の増設ができるのか、日本企業の真価が問われているようです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。