再エネ拡大に不可欠の存在、需給調整市場がスタート、関電など参入【エネルギー自由化コラム】
出力が変動する再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力需給の調整力を取引する需給調整市場がスタートしました。これまで進めてきた公募による調達より広域かつ効率的に運用するためで、再エネが今後、さらに導入が進みそうなことも見据え、電力の安定供給に重要な役割を果たすことになりそうです。
一般送配電事業者9社が取引所を創設
需給調整市場は一般送配電事業者がエリア内で公募による調達を進めてきた電力需給の調整力を全国的な取引にするものです。一般送配電事業者が買い手となり、発電設備を備えた発電事業者と、さまざまなリソースを統合して管理するアグリゲーターが売り手になります。
制度設計は電力広域的運営推進機関の有識者会議などで進められました。東京電力パワーグリッド、関西電力送配電、九州電力送配電など沖縄を除く9社の一般送配電事業者と業界団体の送配電網協議会が需給調整市場の運営を担う任意団体の電力需給調整力取引所を設立し、需給調整市場の運営を担っています。
電力需給調整力取引所は9社の一般送配電事業者が組合員になり、契約や精算など市場運営業務を受け持っています。問い合わせの受付や参加申し込みなど一部の業務は送配電網協議会に委託し、送配電網協議会のホームページ上で取引実績などが公表されています。
3次調整力②の取引が4月からスタート
電力調整市場で取り扱う商品は、一般送配電事業者から需給調整の指令を受けてから調整を始めるまでの応動時間などに応じ、「1次調整力」、「2次調整力①」、「2次調整力②」、「3次調整力①」、「3次調整力②」の5つに分かれています。
「1次調整力」は応動時間が10秒以内、「2次調整力①」と「2次調整力②」は5分以内、「3次調整力①」は15分以内、「3次調整力②」は45分以内と規定されました。このうち、「3次調整力②」は主に再エネの出力変動に対する取引と位置づけられています。
2021年度は「3次調整力②」の取引だけが進められていますが、2022年度に「3次調整力①」が加わり、2024年度に商品がすべてそろう予定です。2023年度までは現在の調整力公募の仕組みが残り、需給調整市場と並行して調整力の調達を続けます。
一次調整力 | 二次調整力① | 二次調整力② | 三次調整力① | 三次調整力② |
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指令・制御 | オフライン (自動制御) | オンライン (LFC信号) | オンライン (EDC信号) | オンライン (EDC信号) | オンライン |
監視 | オンライン (一部オフラインも可) | オンライン | オンライン | オンライン | オンライン |
回線 | 専用線 | 専用線 | 専用線 | 専用線 | 専用線または簡易指令システム |
応動時間 | 10秒以内 | 5分以内 | 5分以内 | 15分以内 | 45分以内 |
継続時間 | 5分以上 | 30分以上 | 30分以上 | 商品ブロック時間(3時間) | 商品ブロック時間(3時間) |
並列要否 | 必須 | 必須 | 任意 | 任意 | 任意 |
指令間隔 | -(自動制御) | 0.5秒~数十秒 | 1分~数分 | 1分~数分 | 30分 |
監視間隔 | 1秒~数秒 | 1秒~5秒程度 | 1秒~5秒程度 | 1秒~5秒程度 | 1分~30分 |
供出可能量 | 10秒以内に出力変化可能な量 | 5分以内に出力変化可能な量 | 5分以内に出力変化可能な量 | 15分以内に出力変化可能な量 | 45分以内に出力変化可能な量 |
需要予測と実績の差を埋めるのが調整力
電力は常に需要と供給を一致させなければなりません。これが一致しないと電気の周波数に乱れが生じて供給を正常に行うことができなくなります。最悪の場合、2018年に北海道で発生した大規模停電のような事態が起きることもあるのです。
こうした事態を避けるために、猛暑で夏の冷房使用が急増し、電力需要が急激に高まると、蓄電池に貯めていた余剰電力を放電したり、工場の使用電力を抑えたりして対処するわけです。これが調整力です。
電力会社は需要を予測して計画を策定していますが、需要実績と完全に一致する計画を作ることはできません。この誤差を解消するために活用するのが調整力です。予測と実績が30分間の平均値で一致していたとしても、より短い時間で見ると細かな変動が生じます。これを解消して需要と供給を一致させるのも調整力の役割です。
再エネ拡大で調整力のより安定した確保が必要に
日本では2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)に向け、再エネの導入拡大が見込まれています。再エネは運転時に温室効果ガスを発生しないクリーンエネルギーですが、太陽光は夜間に発電できず、雨の日に発電量が低下します。風力も風の強さによって発電量が左右されます。需給バランスを取るのが非常に難しい電力なのです。
これまでその調整役を火力発電が務めてきました。しかし、火力発電は大量の温室効果ガスを排出する欠点を持ちます。経済産業省は旧式の石炭火力を廃止する方針です。電力大手は相次いでコストが見合わなくなった石油火力の廃止を進めています。
脱炭素の流れが世界的に進む中、これまで通りに需給バランス調整役を火力発電に委ねることが難しくなってきました。そこで、より安定して調整力を確保することが求められています。再エネの拡大を進めるために、どうしても欠かせないピースの1つが需給調整市場といえるでしょう。
香川県土庄町の送電鉄塔。再エネ導入拡大に伴い、調整力の確保が重要性を増している(筆者撮影)
関西電力は仮想発電所を活用して参入
電力大手の関西電力は6月から「3次調整力②」の取引市場に参入しました。独自の仮想発電所プラットフォーム「K-VIPs」を活用しています。仮想発電所は発電機や蓄電池など多数の所有者にまたがる複数のリソースを統合管理して1つの大きな発電所のように運用するものです。調整力を大規模で効率的に提供する手段と考えられています。
「K-VIPs」は2019年から運用を始めたプラットフォームで、需給調整市場だけでなく、調整力公募や容量市場、卸売市場への活用が見込まれています。契約先には需給調整の結果などがリアルタイムで報告されます。
関西電力は需給調整市場の創設を見越し、参入要件への対応など機能を追加して準備を進めてきました。関西電力は「契約先との調整などから6月の参入になったが、契約先のエネルギーリソース価値を最大化して取引の活性化に貢献したい」としています。このほか、東京電力エナジーパートナーも市場に参入済みです。
既存の設備を活用して報酬を得られるわけですから、市場への参加は仮想発電所に加わる事業者にとってメリットがあります。アグリゲーターとしても火力発電や揚水発電など新たな電源を確保する必要がありませんから、コスト削減になります。
関西電力仮想発電所のシステム構成のイメージ図(関西電力提供)
一部の地域で調達不足が発生
需給調整市場は4月の開設以来、「3次調整力②」の取引市場で5月15日までに1日当たり約3万2,000メガワットの募集量に対し、3万9,000メガワットの応札量があるなど、おおむね順調な推移を見せているようです。
ただ、全エリア平均で12%程度の調達不足が発生し、7割以上を東北電力、中部電力管内が占めています。自エリアからの応札量が少ないためとみられ、相当量を自エリア以外からの落札で補っています。
調達不足は出力調整可能な電源を持つ事業者からの追加調達や、調整力公募した電源の余力活用でまかなっています。市場取引への参入事業者が少なく、市場が活性化していないなどの課題も残っています。
より多くの事業者が市場に参入できる仕組みにどう改善していくには、供給力を提供する事業者にメリットをより明確に示す必要があるでしょう。再エネ拡大には需給調整市場の活性化が欠かせません。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。