地熱モデル地区に秋田県湯沢市など3市町、JOGMECが地熱発電推進で認定【エネルギー自由化コラム】

地熱モデル地区に秋田県湯沢市など3市町、JOGMECが地熱発電推進で認定【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

地熱は、かつて石油危機の時に代替エネルギーとして注目されましたが、コストや開発面が地熱開発の障害となり開発が進みませんでした。日本は世界3位の地熱大国です。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、秋田県湯沢市などの3市町をモデル地区とし、地熱活用事例をもとに地熱開発の促進を図っていきたいと前向きです。

資源小国の日本が持つ貴重な資源の地熱開発を促進するため、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が秋田県湯沢市と岩手県八幡平市、北海道森町の3市町を「地熱資源の活用による地域の産業振興に関するモデル地区」に認定しました。JOGMECはモデル地区の取り組みを全国発信するとともに、地熱を活用した産品の販路拡大を支援する考えです。

シンポジウム会場で3首長に認定証

全国から465人を集めて秋田県湯沢市で開かれた「地熱シンポジウムイン湯沢」(JOGMEC提供)
「地熱の利用促進に向け、モデル地区として尽力していきたい」。8月、湯沢市の湯沢グランドホテルで開かれた「地熱シンポジウムイン湯沢」。
JOGMECから地熱モデル地区の認定証を受けた湯沢市の鈴木俊夫市長、八幡平市の田村正彦市長、森町の梶谷惠造町長が決意の言葉を述べました。

地熱シンポジウムはJOGMECが地熱発電への理解を深めてもらおうと、全国各地で開催しています。今年は再生可能エネルギーの普及に力を入れている秋田県などの協力を得て湯沢市を会場に選ぶとともに、モデル地区の認定証授与式を同時に開きました。

地熱モデル地区は地熱の活用で模範となる地方自治体を認定し、持続可能な地熱開発を推進するために、JOGMECの外部有識者会議で選びました。湯沢市は地熱を活用した「ゆざわジオパーク」の観光利用、八幡平市は地熱発電所からの熱水供給による産業振興、森町は熱水を利用したトマトなどの野菜栽培が高い評価を受けています。

地熱モデル都市の3市町

 秋田県湯沢市岩手県八幡平市北海道森町
人口
44,691人(7月末現在)25,427人(8月末現在)15,442人(4月末現在)
産業農業、温泉観光スキーリゾート、農業漁業、農業
主な地熱発電所上の岱地熱発電所松川地熱発電所森発電所
観光地ゆざわジオパーク八幡平リゾート濁川温泉
地熱による産業温泉観光地熱染めハウス園芸
出典:各自治体ホームページなどから筆者作成

トーク、地熱ツアーなど盛りだくさんのイベント

シンポジウムには、細野哲弘JOGMEC理事長、佐竹敬久秋田県知事をはじめ、地熱開発業者、温泉事業者ら465人が出席しました。秋田大の松葉谷治名誉教授が「地熱発電に利用される地熱水の特徴」と題して基調講演したあと、秋田県出身の女優加藤夏希さんらを交えたトークセッションがあり、湯沢市の活動状況が報告されました。

続いて、中央温泉研究所の益子保前所長らをファシリテーターにパネルディスカッションが開かれ、地熱事業者、研究者らが地熱発電の将来について意見交換しました。この中で京都大経済研究所の山東晃大研究員は「経済面の地域波及効果を定量化し、住民とコミュニケーションを取って合意を作っていくことが大事」と強調しました。

このほか、会場では地熱発電の先進地とされるニュージーランドの活動がパネルなどで紹介されたのに加え、高校生や地元住民ら約80人が受講した地熱講座が催されました。湯沢市内の地熱発電所や地熱利用施設を巡る地熱見学ツアーにも約80人が参加しています。

マグマだまりが周囲に地熱地帯を形成

地球の中心部は5,000~6,000度の高温と考えられています。地球はこの熱で内部から絶えず暖められていることになります。この熱が地熱です。

日本のような火山地帯の地下数~十数キロには岩石が1,000度以上の高温になり、ドロドロに溶けたマグマだまりと呼ばれる場所があります。このマグマだまりが大量の熱を放出し、周囲に地熱地帯を形成しているのです。

経済産業省によると、地熱は多目的に利用できるエネルギーで、イタリアのラルデレロで明治時代の1904年に天然蒸気を利用した発電機、1913年に世界初の地熱発電所が運転開始して以来、発電に利用されてきました。

日本は世界第3位の地熱大国

日本は石油や天然ガスの産出量が極めて少ない資源小国です。しかし、地熱資源は発電量に換算して2,347万キロワットに達するとされ、米国、インドネシアに次ぐ世界3位の地熱大国です。

政府も地熱発電で生む電力を2030年度の電源構成で現在の3倍に引き上げる目標を打ち出していますが、現在の発電量は50万キロワット余りで、総発電量の0.2%にしかすぎません。なぜでしょうか。

石油危機が起きた1970年代、代替エネルギーとして地熱に注目が集まりました。しかし、代替エネルギーとして選択されたのは、原子力や海外産の石炭でした。コスト面が障害となり、地熱開発に大きな力が注がれなかったのです。地熱地帯を伴う活火山の多くが国立公園内にあることも開発推進の妨げになってきました。

地熱発電の先進国とされるニュージーランドは日本の7割ほどの面積に約500万人しか暮らしておらず、電力需要が少ないという特殊事情があるものの、電力の多くを地熱と水力でまかなっています。日本でも東日本大震災を契機に再エネに注目が集まる中、地熱発電の推進を求める声が次第に高まってきました。

湯沢市はジオパークで観光売り込み

地熱モデル地区に認定された3市町はいずれも急激な人口減少と高齢化の進行に苦しんでいる地域です。しかし、温泉観光だけでなく、地熱を産業や地域づくりに生かして苦境を乗り切ろうとしています。

湯沢市は高松地区で1994年から東北電力の上の岱発電所(出力2万8,800キロワット)、高松、秋ノ宮の両地区にまたがる国有林地で2019年5月から電源開発などが出資する湯沢地熱の山葵沢発電所(出力4万6,199キロワット)が営業運転しています。さらに、木地山・下の岱地区と小安地区で地熱開発に向けた調査が継続中です。

小安峡大湯滝、川原毛地獄など地熱により噴き出す蒸気が観光名所を形成しています。湯沢市は日本ジオパークから2012年、全域が「ゆざわジオパーク」に認定されました。湯沢市企画課は「温泉と地熱をテーマにした観光をセットにして売り出していきたい」と力を込めました。

八幡平市は地熱染め、森町は園芸利用に力

八幡平市は松川温泉に日本初の地熱発電所となる東北自然エネルギーの松川発電所(出力2万3,500キロワット)が1966年から運転していることから、地熱発電のふるさとと呼ばれています。農業と温泉、スキーリゾートの街ですが、地熱の蒸気を活用した地熱染めを売り出しています。

地熱染めは染料をつけた布に地熱の蒸気を当て、蒸気に含まれる微量の硫化水素がもたらす脱色作用で絶妙なグラデーションを生む染色方法です。八幡平市企画財政課は「地熱を産業利用することで地域の名産を育てたい」と意気込んでいます。

森町は1982年、濁川地区で北海道電力の森発電所(出力2万5,000キロワット)が営業運転を始めました。濁川地区は北海道を代表する野菜の産地だけに、地熱をトマトやキュウリなどの園芸ハウスに活用して生産地としての競争力を高めています。

北海道の野菜産地は輸入野菜との競争が激化して苦しい状況に追い込まれている地域が少なくありませんが、濁川地区は高付加価値化に成功しています。森町企画振興課は「地熱の施設園芸を進めた結果、冬場の出稼ぎが減るなど地域に良い効果が出てきた」と喜んでいます。

掘削コストの増加など開発促進へ課題も

日本地熱協会によると、JOGMECの助成制度を活用した大中規模の地熱開発は2018年10月現在で全国34カ所に上りますが、掘削段階前の案件が過半を占めています。掘削業界のコスト増など克服しなければならない課題が残り、開発促進されるかどうかは今後の動向にかかっているようです。

JOGMECは「多くの課題を乗り越え、開発を促進するのが政府の方針。モデル地区の地熱活用事例を発信することなどにより、地熱開発の機運を盛り上げていきたい」と前向きに話しました。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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