民家の屋根で太陽光発電事業、電力大手が相次いで参入する理由とは【エネルギー自由化コラム】
太陽光発電の推進に向け、電力大手の注目が民家の屋根に注がれています。東京電力グループに続いて、関西電力、沖縄電力が民家の屋根に太陽光発電を設置する事業に相次いで参入しました。この事業は2012年の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)スタートと同時に、ソフトバンクなどが参入して話題を集めましたが、電力大手がなぜ今、事業を進めるのでしょうか。
沖縄電力が4月から「かりーるーふ」スタート
「事前の申し込みは予定数を大幅に上回る数が殺到した。4月のサービス開始後に受付再開したところ、また申し込みが殺到し、今は受付をストップしている」。新事業の「かりーるーふ」をスタートさせた沖縄電力は予想を上回る反響の大きさに目を丸くしています。
かりーるーふは戸建て住宅を所有する人から屋根を借り、太陽光パネルと蓄電池を設置する第三者所有モデル事業です。沖縄電力とグループ企業の沖縄新エネ開発が共同で進めています。将来は民家に設置した多数の太陽光発電を1つの仮想発電所として機能させることも視野に入れています。
契約は15年間。かりーるーふの「かりー」は沖縄県の方言で縁起が良いとか、福を招くことを意味します。「るーふ」は英語で屋根です。全体で屋根を借りるという意味が込められています。沖縄電力は太陽光パネルだけでなく、蓄電池を無償設置するサービスは電力大手で初めてとしています。
沖縄電力提供
建物の所有者は初期費用ゼロで電力の使用が可能
建物の所有者は屋根を貸すだけで、設備や運用に関する費用が一切かかりません。設備は沖縄新エネ開発が所有し、保守点検を行います。一部の機器を除いて屋外に設置され、暮らしを邪魔することもないのです。
発電した電力は沖縄電力のものになりますが、台風や地震などの災害で停電した際に建物の所有者が使用できるほか、オール電化の契約をすると割安価格で常時電力使用が可能になります。太陽光発電と蓄電池だけで不足するときは、沖縄電力から系統電力が供給されます。
沖縄電力は、従量電灯契約からかりーるーふ+オール電化の契約に切り替えた場合、家族4人の一般的な世帯で年間約5万円の出費を抑えることができると試算しています。
火力発電の代替電源、選択肢は再エネだけ
沖縄電力がかりーるーふを導入した背景には、再エネを推進しなければならない苦しい事情があります。菅義偉首相が2050年のカーボンニュートラルを打ち出したのを受け、沖縄電力も2020年12月、同様の目標を掲げました。
しかし、沖縄電力は電力大手で唯一、原子力発電所を持っていません。巨大な水力発電所を建設できる大きな川、地熱発電の適地も沖縄県に存在しません。これまで地域を支えてきたのは火力発電です。既存の火力発電所を廃止していくとなると、代替電源は再エネにならざるを得ないのです。
政府がカーボンニュートラルを打ち出す前から、大宜味村根路銘に風力発電実証設備を開設し、大量の風力発電を電力系統に導入した際の影響や出力安定方法を研究しています。風力とともに、もう1つの主力電源に育てたいと考えているのが太陽光です。
ただ、沖縄県は数多くの離島があります。大型の再エネ発電設備の設置や島外からの再エネ由来の電力送電はコスト面で困難が伴います。そこで、大規模発電所の設置という従来のやり方と異なる視点で目をつけたのが、民家の屋根でした。
かりーるーふを再エネ拡大の第一歩に
家庭用太陽光発電は10キロワット未満の出力です。これに対し、原発は福井県おおい町の大飯原発で1機当たり100万キロワットを超えます。石炭火力は沖縄県金武町の金武発電所で1機当たり20万キロワット以上です。
沖縄電力がかりーるーふ導入前に募集した契約者の数は50戸。この程度の数ではとても火力発電の代替になりませんが、再エネ推進の機運を盛り上げ、2050年までに一定規模の仮想発電所となるよう育てたい考えです。
沖縄電力は「かりーるーふはまだ小規模だが、再エネ推進の第一歩。将来は風力と太陽光で地域の電力を支えられるようにしたい」と意気込んでいます。
沖縄電力提供
カーボンニュートラル実現に再エネ推進が不可欠
民家の屋根を活用した太陽光発電の設置は建物所有者自身が初期費用をかけて進める一般的なケース以外に、電力事業者が行うことがあります。一般に「屋根貸し」と呼ばれているもので、沖縄電力をはじめ、電力大手が注目しているのはこのケースです。
ただ、ひと口に屋根貸しといっても電力事業者が設備を貸し出すリース方式、使用料を建物所有者に払って発電する方式など、手法はさまざまです。電力大手は太陽光発電をさらに普及させ、将来の主力電源に育てようと考えているのです。
沖縄電力以外の電力大手も2050年のカーボンニュートラルを目指し、旧式の石炭火力廃止を求められています。原発の新増設が国民感情を考えると難しいだけに、再エネの推進に本腰を入れざるを得ないのです。
東電グループのTEPCOホームテック、関西電力も参入
電力大手のトップを切って参入したのは、東京電力グループのTEPCOホームテックです。省エネルギー提案の一環として2018年からサービスを始めました。TEPCOホームテックと京セラが提供する太陽光発電機器を初期費用の負担なく、定額の機器利用料金だけで自宅に設置できるサービスです。
契約期間は10年。契約満了後は設置した機器を建物所有者に無償譲渡します。家庭用太陽光発電のFIT制度が終了した世帯には、蓄電池の導入による自家消費を提案しています。TEPCOホームテックは「4月現在で全国約500社と協業して事業を進めている。引き続き環境にやさしく、満足していただけるサービスを展開したい」と話しました。
関西電力は京セラと協業して新会社の「京セラ関電エナジー」を京都市伏見区に設立、2019年から関東と中部エリアで事業参入しました。関西電力は再エネの利用拡大、京セラは太陽光パネル事業の収益改善を狙っています。
新築戸建て住宅を中心に太陽光発電設備を設置、発電した電力と系統電力を建物所有者に供給する仕組み。建物所有者は電気料金を払うだけで設備を設置でき、契約期間満了後に設備を無償で譲り受けることができます。電気料金は従来の従量電灯契約に比べ、一般的な世帯で関東エリアが年間約1万300円、中部エリアが年間約9,800円安くなります。
民家の屋根に対する注目は今後も高まる見通し
経済産業省は今後、旧式石炭火力の休廃止を進める考えです。石炭火力は電力大手のほとんどが主力電源にしています。カーボンニュートラルの実現と併せて考えれば、電力大手は早急に再エネの拡大を進め、電源を確保しなければならないでしょう。
太陽光発電はFIT制度の導入で一気に拡大しましたが、導入の余地はまだあります。水力や風力発電と異なり、日本中どこでも活用が可能な点も太陽光発電の強みです。民家の屋根を新しい電源にしようという電力大手の動きが今後、さらに加速されそうです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。