僧侶がつくった新電力が来春始動、収益で維持困難な寺をサポート【エネルギー自由化コラム】

僧侶がつくった新電力が来春始動、収益で維持困難な寺をサポート【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

さまざまな社会課題に取り組んできた僧侶らにより、今年6月に設立された新電力「TERA Energy」(通称・おてらのでんき)。来年4月から電力供給を開始、収益の一部は人口減少や高齢化で維持困難になった寺のサポート費や、自殺防止などの社会貢献活動に充てられます。詳細をお伝えします。

気候変動対策や自殺防止など社会課題に取り組んできた僧侶らが集まって設立した新電力「TERA Energy」(通称・おてらのでんき)が、2019年4月から電力小売り事業に乗り出します。僧侶らがつくる電力会社は極めて珍しく、趣旨に賛同した寺や檀家を通じて顧客を開拓して再生可能エネルギーを中心とした電力を供給する計画です。売り上げの一部は協力する寺に還元し、人口減少や高齢化で維持困難になった寺の資金に充てます。

京都市に本社置き、気候ネットワークなどが協力

京都市右京区の長慶院で開かれた「TERA Energy」の記者会見。社長の竹本了悟さん(左から2人目)が2019年4月から始める電力小売り事業について説明した(筆者撮影)
会社は奈良県葛城市南道穂にある浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺)の西照寺住職の竹本了悟さんらが呼び掛けて6月に設立されました。京都市下京区万寿寺中之町に本社を置き、資本金は402万円。社長には竹本さんが就任しました。

再生可能エネルギーの普及に力を入れるNPO法人「気候ネットワーク」と、福岡県みやま市の電力コンサルティング会社「みやまパワーホールディングス(HD)」が協力しています。役員には僧侶のほか気候ネットワークの豊田陽介主任研究員、みやまパワーHDの磯部達社長も名を連ねました。

竹本さんら浄土真宗本願寺派の僧侶が中心になって計画した会社ですが、広島県や京都市などの寺から宗派を超えた賛同が既に集まっています。協力してくれる寺とその檀家へ電力を販売するほか、寺を通じて地域の一般家庭にも販売することにしています。現在は事業スタートに向け、経済産業省へ小売電気事業者の登録を申請している段階です。

初年度は中四国で販売し、2020年度から全国展開

TERA Energyの販売目標(中国・四国地方)

年度2019年度2020年度
地域中国四国中国四国
低圧電力(件)2005026065
一般家庭・店舗4,0001,0007,0001,500
高圧契約(件)63105
電力容量(キロワット)3万7,5005万1,0001万2,750
電力売上(円)5億6,000万1億4,000万13億7,000万3億4,000万

出典:TERA Energy記者会見資料

地域の再生可能エネルギーや中国電力などから電力を調達し、初年度は中国、四国地方で限定的に電力販売を始める計画。契約目標は5,000件程度。2020年からは全国販売に移りたい意向です。

販売価格は広告宣伝費など経費をできるだけ圧縮し、電力大手より2%ほど安く設定する方向。電力卸市場に依存すると、価格高騰時の負担が大きくなるため、福岡県みやま市のみやまスマートエネルギーなど自治体電力と連携してできるだけ低価格で調達することを検討しています。

小水力、太陽光など再生可能エネルギーの発電施設を自前で所有し、脱原発、火力発電依存の軽減に貢献することも考えています。将来は再生可能エネルギー100%を達成し、地球温暖化防止の一助となることが目標です。

販売収益の一部を寺のサポート費に

もう1点、力を入れるのが、人口減少と高齢化で苦境に立たされている地方の寺の維持です。このため、電力販売の収益の一部を「お寺サポート費」として協力してくれた寺に還元する仕組みを設けました。

過疎地を中心に地方の寺は人口減少と高齢化で檀家の数が急減し、墓を撤去する人が増えています。寺の財政は火の車で、住職が副業して維持費を稼いでいるところが珍しくありません。住職が不在となったあと、後任が見つからず、放置されている寺も少なくないのです。

徳島県では、老朽化した寺の補修工事費がなく、放置された結果、屋根が崩落する事故が発生しました。島根県と広島県の境界付近に位置する中国山地では、過疎の進行とともに廃寺となったところが数多く見られます。

人口減少で疲弊し、失われつつある寺の機能

熊本県人吉市が2013年、市内の墓地約1,000カ所を調べたところ、全1万5,000基の墓のうち、ざっと6,500基が無縁墓になっていることが分かりました。管理する住民の高齢化だけでなく、寺の機能低下も影響していると考えられています。

住職不在となった寺の仕事は他の寺の住職が兼務します。しかし、京都市や奈良市にある寺の僧侶が遠く離れた中国地方の寺の住職を兼務する例もあり、お盆の檀家回りや法要ができなくなった地域も出ています。

寺はこれまで地域コミュニティの一翼を担い、住民たちを結びつける役割を果たしてきました。しかし、その機能が各地で失われようとしているのです。人口減少が明治の廃仏毀釈、戦後の農地改革に次ぐ第3の寺の危機と考える人は、仏教界に少なくありません。

自殺防止や遺族支援にも活用を計画

竹本さんは広島県江田島市生まれ。国のためにという思いを胸に防衛大学校に進学し、卒業後海上自衛隊幹部候補生学校で学びましたが、交流があった米軍兵士からベトナム戦争の実態を耳にし、わずか1年も経たずに除隊しました。「自分に人を殺せるだろうか」と自問自答した結果でした。

その後、進んだ道は父と同じ僧侶です。ある会合で夫を自殺で亡くした遺族の話を聞いたことをきっかけに、8年前から自殺者の遺族を支援するNPO法人を設立して活動を続けています。

そんな竹本さんの目に映る寺の現状は深刻な危機そのものでした。過疎地のコミュニティ崩壊をどうにかしたいと思い、いろいろな人に相談するうちに、浮上してきたアイデアが電力会社を設立し、その収益で寺を助けることだったのです。

収益の一部は草刈りや雪下ろしの人件費など寺の困りごと解決に充当するほか、自殺防止や自殺者の遺族支援といった社会貢献活動にも充てる考えです。

新電力が襲われる淘汰の危機

ただ、会社の先行きを楽観視することはできません。新電力の中には倒産や事業撤退に追い込まれるところが次々に出ていますが、その多くがTERA Energyと同様に卸売市場や他の事業者から電力を調達して転売する会社です。

日本卸電力取引所のスポット市場価格は7月、夏の需要増大から西日本で過去最高の1キロワット時当たり100.02円を記録しました。その結果、自前の発電施設を持たない新電力の多くが深刻なダメージを受けました。

自治体が住民に絶大な信頼を持つとして地元顧客の確保に自信を持って参入した自治体電力の中にも、苦戦を続ける例が見られます。住民は自治体を信頼していても、電力については素人とみているのかもしれません。寺も信者から厚い信頼を寄せられていますが、電力購入となると同様の見方をされる可能性があります。

期待と不安が入り混じる「おてらのでんき」の船出

TERA Energyが島根、広島、香川の3県で実施した事前調査では、訪問した38寺のうち、74%に当たる28寺が賛同の意向を示しました。残り26%の10寺は「様子を見る」と答え、反対の声は1つもありませんでした。しかし、激しい競争が続く電力小売業界でその結果が現実になる保証はないのです。

竹本さんは「その点は私自身が最も懸念しているところ。懸念を肝に銘じ、独自電力の確保と檀信徒へのアプローチに全力を挙げたい」としています。電力小売りに乗り出す僧侶たちがどうやって収益を確保し、寺の苦境を救うのか、期待と不安が入り混じる船出となったようです。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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