バイオマス発電とは?仕組みやメリット・デメリットについて
この記事の目次
バイオマス発電とは
バイオマス発電とは、その名の通り「バイオマス」を燃料として発電する方法です。バイオマスとは、生物を意味する「bio」と量を意味する「mass」から成る言葉で、化石燃料以外の生物由来の再生可能資源を指します。まずは、バイオマス発電の概要から見ていきましょう。
そもそもどうやって発電するの?
詳しい発電方法については後で述べるとして、まずはざっくりとしたお話です。バイオマス発電では「バイオマス燃料」を燃やして出る水蒸気やガスを使って、タービンを回すことで発電します。つまり燃料が違うだけで、火力発電の一種なんです。「火力発電なのにエコ?」と疑問に思いますよね?その理由は、順番にご説明していきます。
バイオマス発電の歴史
日本国内では、平成14年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されて以降、バイオマス発電の導入が各地で積極的に始まりました。
地球温暖化防止、循環型社会形成、戦略的産業育成、農山漁村活性化等の観点から、農林水産省をはじめとした関係府省が協力して、バイオマスの利活用推進に関する具体的取組や行動計画を「バイオマス・ニッポン総合戦略」として平成14年12月に閣議決定しました。
出典:農林水産省/バイオマス・ニッポン
その後、平成18年にはこの戦略が改訂されたり、平成21年には「バイオマス活用推進基本法」が制定されたりして、バイオマス発電の導入の更なる加速が図られています。
平成18年3月には、これまでのバイオマスの利活用状況や平成17年2月の京都議定書発効等の戦略策定後の情勢の変化を踏まえて見直しを行い、国産バイオ燃料の本格的導入、林地残材などの未利用バイオマスの活用等によるバイオマスタウン構築の加速化等を図るための施策を推進してきました。
出典:農林水産省/バイオマス・ニッポン参照:バイオマスをめぐる現状と課題 – 農林水産省
そして、2012年の7月から始まった「固定価格買取制度(FIT制度)」の対象となったとで、安定的に運転できる再生可能エネルギーとして、バイオマス発電はひときわ注目を集めるようになったのです。
バイオマス発電の仕組み
バイオマス発電の概要が分かったところで、次に発電の仕組みについて具体的に見ていきましょう。バイオマス発電は、以下のように発電方法を3種類に分類することができます。
直接燃焼方式
木材などを燃焼させて水を沸騰させ、水蒸気でタービンを回して発電する方法です。水蒸気を利用するところは、一般的な火力発電と同じです。直接燃焼方式は作り出せる温度が比較的低いので、大型の設備でないと効率が悪くなります。ただし、大型化するほど大量の木材を安定して調達する必要があるため、木材の品質や切り出し・運搬・加工などの条件が難しくなります。
熱分解ガス化方式
木材などを高温で蒸し焼き(熱処理)にした際に発生するガスを燃料に、タービンを回して発電します。木材を蒸し焼きにすると、いわゆる「炭」ができます。この際に木材から可燃性の「熱分解ガス」が発生し、これを発電に用いるのが直接燃焼方式との違いです。
燃焼温度が比較的高く、また燃料の可燃成分を最大限活用できるため、直接燃焼方式よりも規模の小さい発電所を経済的に作りやすいのが特徴です。
生物化学的ガス化方式
発酵しやすい下水汚泥や家畜の糞尿を発酵させてメタンなどのガス(通称「バイオガス」)を発生させます。そのバイオガスを燃料に、タービンを回して発電します。水分が多く燃えにくいバイオマスでも活用できることや、廃棄物の有効利用になること、発生するガスの発熱量が高く、高効率であることが特徴です。
以上3つの画像の出典:バイオマス発電のしくみ | みるみるわかるEnergy | SBエナジー
バイオマス発電の事例
バイオマス発電は、日本国内のみならず世界中で活用されています。その例をいくつか見てみましょう。
日本国内
まずは日本国内の事例を見てみます。
吾妻木質バイオマス発電所
画像の出典:バイオマス発電について | 株式会社吾妻バイオパワー参照:オリックス│ニュースリリース│木質バイオマス発電所の営業運転を開始
糸魚川バイオマス発電所
新潟県糸魚川市にある「糸魚川バイオマス発電所」は、木質チップと石炭の混合燃料で発電するバイオマス発電所で、同じ敷地内で隣接する明星セメントの糸魚川工場から木質燃料を調達して使用しています。
また、発電で発生する灰はセメントの原料に利用するという具合に、サイクルが確立しています。発電規模は50000kWと、石炭との混合燃料とすることで規模が増しています。
参照:サミット明星パワー株式会社
別海バイオガス発電所
画像の出典と参照:施設概要 – 別海バイオガス発電株式会社余談ですが、別海町はAKB48の私の推しメン・川本紗矢ちゃんの出身地でもあります。その別海町にこんな発電所があるとは知りませんでした。
海外
続いて海外の事例も見てみましょう。
インド・ビハール州
バイオマス発電の普及で電力事情が一変した村があります。インドの北東部にある州・ビハールのガーカ村では、かつては質の悪いディーゼル発電で電気を起こしていましたが、たびたび停電が発生する有り様でした。そんな状況下、サラン・リニューアブル・エナジー社がこの地域でバイオマス発電事業を始めると、電力事情は様変わり。ディーゼル発電よりも安くて質の良い電気が診療所や工場、娯楽場の映画館にしっかりと供給されるようになりました。
動画の出典:バイオマス発電で蘇った村 – YouTube
バイオマス発電のメリット・デメリット
バイオマス発電にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
メリット
まずはメリットについて見ていきましょう。
再生可能エネルギーである
バイオマス発電は再生可能エネルギーに分類されます。バイオマス発電によって発生した電力は、FIT(固定価格買取制度)の対象となります。
安定的に発電することができる
天気任せの太陽光発電や風力発電とは違い、バイオマス発電は燃料さえあれば安定的に発電することができます。「家畜が疫病で大量死して糞尿がない」とか「山が突然枯れて木材がない」などのアクシデントで燃料供給が絶たれないかぎり、電気の使われ方に応じて発電量を自由にコントロールできるのは、再生可能エネルギーの中では秀でた特徴のため、注目されています。
カーボンニュートラルである
バイオマス発電には、「カーボンニュートラル」というメリットがあります。
植物は燃やすとCO2を排出しますが、成長過程では光合成により大気中のCO2を吸収するので、排出と吸収によるCO2のプラスマイナスはゼロになります。そのような炭素循環の考え方のことをカーボンニュートラルといいます。
つまり、バイオマス燃料を燃やして出るCO2は、もともと大気中のCO2を植物が吸収したものなので、CO2の総量は増えない、ということです。これは光合成を行う植物のみならず、人糞や家畜の糞尿も同じです。二酸化炭素を減らしはしないが増やすこともしない、だから中立(ニュートラル)なんですね。
ちなみに、「化石燃料ももともとは動植物の死骸なんだからカーボンニュートラルなのでは?」というふうに思った方もいらっしゃるかもしれません。確かに数万年単位で見れば、化石燃料もカーボンニュートラルであると言えなくもありませんが、今の時代からでき始める石油や石炭が完成するころには、人間は絶滅しているはずです。ですから、化石燃料はカーボンニュートラルとは言えないのです。
燃料資源が国内の林業から供給できる
建材としての需要の変化から国産材は余りがちとなっています。このため、林業の衰退や山林の荒廃といった問題が指摘されていました。バイオマス発電は国内で生産される木材を燃料化できるため、エコなだけでなく、輸入資源に頼ることのないエネルギー源として捉えることもできます。
また国産木材の消費につなげることで、林業の再興や山林の再生、地方の活性化といった効果を期待する向きもあるようです。
デメリット
メリットがあればデメリットもあります。
コストがかかる
バイオマス発電、とりわけ木質バイオマス発電はコストが高い、という指摘があります。コストを大きく分けると以下の3つが挙げられます。
- 燃料自体のコスト
- 燃料の運搬にかかるコスト
- 木材チップの生成にかかるコスト
木質バイオマス発電では、木材を効率よく燃焼させるために乾燥させ、小さくチップ化したりペレット化したりする必要があります。また、木材を山から搬出する手間、搬出した木材を運び、チップに加工し、発電所まで輸送する手間など、木材自体の値段以外の様々な部分でコストがかかります。
ただし、こうした工程を一体的に設置したり、他の木材産業と共有するなどの工夫によってコストを削減している例もみられます。他方、家畜の糞尿で発電する場合、牛舎などと発電所は同じ自治体にあることが多く、運搬にかかるコストは低いとみられます。
参照:バイオマス発電の経済性評価
燃焼温度が低い木質バイオマスは、発電だけでは効率が悪い
エネルギー変換効率とは、読んで字の如く、あるエネルギーを別のエネルギーに変える際の効率のことです。林野庁のホームページを見てみると……
木質バイオマスのエネルギー変換効率は、「熱利用」のみの場合と熱と電力の両方を供給する「熱電併給」の場合、75%程度とみられている。一方、発電のみの場合は高くても25%程度とする報告があり、石炭火力発電所における通常のエネルギー変換効率である40%程度と比べて低いことが知られている。
出典:林野庁/第1部 第I章 第3節 復旧・復興に向けた森林・林業・木材産業の取組(2)
とあります。しくみのところで触れたように、木質バイオマス燃料はあまり高い温度で燃えません。このため、例えば農業用の暖房などで発電に使った後の蒸気を有効利用できる場合を除くと、他の発電方法に比べてエネルギー利用の効率が下がってしまいます。ちなみに、一番高効率な発電方法は水力発電で、変換効率は実に80%です。
水力発電に関しては、以下の記事でご説明しています。
木材資源の取り合いが懸念される
木材は、発電以外にも建築、家具、製紙、燃料(まき、木炭)などに用いられています。また、古くから品質に応じて、付加価値の高いものから低いものへと順番に利用していく「カスケード利用」が行われ、品質の低い木材でも合板にしたり紙にするなど、活用が図られてきました。
木質バイオマス発電は燃料としての利用ですから、木材の有効利用の点からは、最も品質の低い、他に用途のない木材が使われるべきですが、固定価格買い取り制度の価格が高すぎるために、他に使われるべき木材であっても、バイオマス燃料として燃やしてしまうことが懸念されています。
参照:マテリアル利用との競合 – 一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会
バイオマス燃料の種類
バイオマス発電に使う燃料を見ていきましょう。
木材
まずは木材です。間伐材や建築廃材、山で木を伐り出した際に現地で捨てていた小径材や枝条、端材などの「林地残材」が代表例で、乾燥させてチップやペレットに加工し、安定して燃焼しやすいようにする場合がほとんどです。
木材と石炭の混合燃料
CO2排出量が多く、環境に悪いと指摘されている石炭火力発電所で、燃料の石炭の一部を木質バイオマス燃料に置き換えて環境負荷を改善する利用方法があります。熱量の25%程度までは実証されていて、既存の発電所を利用できることと、大量のバイオマス燃料の供給体制が整わなくても徐々に石炭を置き換えていけることがメリットで、専用の発電所を作らずともバイオマスの利用を素早く進められると考えられています。参照:再生可能エネルギーの利用拡大に向けた取り組み|常磐共同火力株式会社
下水汚泥・家畜糞尿、生ごみ
下水を処理する際に発生する汚泥や、家畜の糞尿、あるいは生ごみなど、発酵させるとメタンガスを生じるものもバイオマス燃料です。上で紹介した別海バイオガス発電所のほか、既存の下水処理場に発電設備を設けている例もあります。参照:山形市上下水道部[浄化センター]
廃油
調理等で使用された廃油に目をつけ、発電事業に再利用する動きもあります。外食産業等から発生する廃油は1日数百トン。この廃油を発電に利用できる精度まで精製して利用するようです。出典:バイオAPS廃油発電・売電システム|株式会社みらいクリエイト
パームヤシ殻(PKS)
パームヤシの実からパーム油をとった後の「ヤシの殻」を燃料に用いるのがPKSです。脂分が残っているため、平均的な木材よりも高い効率で燃やすことができます。現在のバイオマス発電の拡大ペースには国産木材の供給が追いつかないと考えられているため、アジアからの安定的な輸入が可能なPKSは注目を集めています。
一方で、PKSを長距離輸送する過程のCO2排出量が加味されていないことや、パームヤシ栽培は熱帯雨林を切り開いて行われるため、生物多様性などCO2排出量の面だけでは語れない環境問題に繋がる点なども指摘されています。
バイオマス発電の現状と今後の展望
最後に、日本国内におけるバイオマス発電の現状と今後の展望について見てみましょう。
発電量
バイオマス発電でできた電気はどれくらいの量を占めているのでしょうか。平成27年に発行されたエネルギー白書によると……
我が国において2013年度に利用されたバイオマスエネルギーは原油に換算すると1,216万klであり、一次エネルギー国内供給量54,233万klに占める割合は2.2%でした。
とされています。ちなみに、前年度の平成24年度におけるバイオマスエネルギーの利用量は2.1%ですから、1年間での増加は0.1%にとどまっています。出典:エネルギー白書2015
補助金制度
事業者がバイオマス発電を導入する際には、経済産業省や農林水産省、環境省、その他関係機関がさまざまな補助金を用意しています。大きく分けて
- ①導入前の計画段階
- ②導入中
- ③運用中
の3つの段階に分けて、補助金が交付されます。一体どれくらいの金額が補助金として支出されたかという点はなかなか資料がないのでわかりませんが、予算案を見てみると、例えば環境省の「木質バイオマス資源の持続的活用による再生可能エネルギー導入計画策定事業」には、平成28年度予算案では4億円が計上されています。参照:環境省_地方公共団体・事業者向け支援事業
固定価格買取制度
バイオマス発電をはじめとする再生可能エネルギーについては、電力会社が買い取る際の価格が固定されています。これを通称「固定価格買取制度」と言います。バイオマス発電については、燃料によって差はあるものの、13~40円の価格が設定され、太陽光発電よりも高い価格設定となっています。ちなみに、40円の価格設定となっているのは間伐材由来のバイオマス発電であり、これにより今後は間伐材を燃料とする発電が増加する可能性があることから、間伐材の不足と価格の高騰が見込まれるとの指摘もあります。
参照:なっとく!再生可能エネルギー 固定価格買取制度参照:バイオマス発電、2016年から急増の見込み 遅れてきた再エネ業界の主役
今後の展望
さて、肝心の今後の展望はどうでしょうか?
平成21年に策定された「長期エネルギー需給見通し(再計算)」では、平成32年の目標として、廃棄物発電とバイオマス発電、それにバイオマス熱利用を合計して、原油換算で1000万kL分、平成17年の約2.5倍の発電量を目指すとしています。ただしこれは、平成23年の東日本大震災よりも前に策定されたものであることから、実際には今後この目標が引き上げられることもないとは言えません。補助金制度の拡充、固定買取価格のさらなる見直し等が行われることもなきにしもあらず……。
また、「エネルギー基本計画」によると、バイオマス発電の位置づけは次のようになっています。
未利用材による木質バイオマスを始めとしたバイオマス発電は、安定的に発電を行うことが可能な電源となりうる、地域活性化にも資するエネルギー源である。特に、木質バイオマス発電については、我が国の貴重な森林を整備し、林業を活性化する役割を担うことに加え、地域分散型のエネルギー源としての役割を果たすものである。
一方、木質や廃棄物など材料や形態が様々であり、コスト等の課題を抱えることから、既存の利用形態との競合の調整、原材料の安定供給の確保等を踏まえ、分散型エネルギーシステムの中の位置付けも勘案しつつ、規模のメリットの追求、既存火力発電所における混焼など、森林・林業施策などの各種支援策を総動員して導入の拡大を図っていくことが期待される。
出典:エネルギー基本計画
以上で言及されている通り、バイオマス発電は林業や畜産といった第1次産業と密接な関係があり、新たに雇用を創出できるほか、燃料の確保と発電を一地域内で完結することで地域の活性化にもつながると見込まれています。平成28年度の国の予算では、「地方創生」の一環として「バイオマスエネルギーの地域自立システム化事業」に10.5億円の予算が割り当てられるなど、政府の力も入っています。最大のデメリットである「コスト」の問題さえ解決できれば、環境にも優しく日本経済にも優しい発電方法という地位を築く日も夢ではないかもしれません。
バイオマス発電まとめ
今回は バイオマス発電 について見てまいりました。
- 化石燃料以外の生物由来の再生可能資源である「バイオマス」を燃料に発電する方法
- バイオマス燃料を燃やして水を沸騰させ、水蒸気でタービンを回す
- バイオマス燃料を燃やして発生するガスでタービンを回す
- バイオマス燃料が発酵する際にできるバイオガスでタービンを回す
- 再生可能エネルギーである
- 安定的に発電できる
- カーボンニュートラルである
- 燃料資源が国内の林業から供給できる
- コストがかかる
- 燃焼温度が低い木質バイオマスは、発電だけでは効率が悪い
- 木材資源の取り合いが懸念される
- 発電量は全体の2.2%
- 導入前、導入中、運用中の3段階で補助金が出る
- 固定買取価格は最大40円
- 「地方創生」の切り札になるかもしれない
電力会社の電源構成をみるとバイオマス発電も入っています。発電方法にも少しだけ興味をもってみると、電力会社の選び方も変わってくるのではないでしょうか?