【ガス自由化コラム】都市ガス新規参入へ重いコスト、保安義務の壁どう破る

【ガス自由化コラム】都市ガス新規参入へ重いコスト、保安義務の壁どう破る
ガス自由化

ガス自由化への参入障壁として、保安義務があげられています。コンロやガス給湯器などのガス機器の検査が、新ガス会社に業務として課せられることになったのです。普段私たちはあまり意識をしていない「ガスの保安」について、どのようなことが起こっているのでしょうか?

2017年4月のガス自由化に向け、新規参入業者の小売事業者登録が始まりましたが、登録開始から新規参入が殺到した電力自由化に比べ低調な滑り出しとなっています。電力以上に大きな壁が新規参入に存在するためで、その1つが小売業者に顧客が使用する機器の管理保安業務が課せられたことです。保安要員の確保が必要で、コストアップが確実とみられています。このため、小売事業者登録をした電力会社は保安業務のノウハウを持つLP(液化石油)ガス業者と提携するほか、日本ガス協会などは10月から保安業務を担当する資格者育成の講習会を始めます。

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新規参入業者の小売事業者登録は様子見の状態

経済産業省・資源エネルギー庁は、都市ガス小売りに新規参入する事業者の登録申請受け付けを8月から始めました。しかし、申請した事業者は関西電力、東京電力ホールディングス傘下の東京電力エナジーパートナー、中部電力を含む5社にとどまっています。(2016年10月18日時点)

消費者のガス自由化認知度はまだまだ

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電力会社は2016年4月にスタートした電力自由化で、ガス会社に顧客を奪われました。1年遅れで始まるガス自由化でガスと電気のセットメニューを導入するなどして反転攻勢を狙っていますが、ガス自由化への関心は今ひとつ盛り上がっていないようです。
広告代理店大手・電通が8月に発表した全国5,000人対象の消費者アンケートでは、ガス自由化を知っている人は34.6%。このうち、内容まで知っている人はわずか7.6%しかいませんでした。これに対し、「知らない」と答えた人は45.0%に達しています。
ガス自由化後の購入先変更については、「すぐ変更したい」が3.1%、「変更する方向で検討したい」が10.0%。電通は「様子見の状況が続いている」と分析しています。こうした消費者の意向と同じ雰囲気を事業者間でも感じます。

企業側もガス自由化への参入は様子見

電力自由化の際には受け付けスタートと同時に24社の申請が殺到し、参入企業も通信・石油・ガスなど幅広い業界にわたっています。これに対し、ガス自由化は申請方法に対する問い合わせが経産省に多数届いていたにもかかわらず、大手電力会社のみの申請にとどまっています。
資源エネルギー庁ガス市場整備室は「現時点で(出足が鈍いかどうかの)判断を避けたい」としていますが、多くの事業者が新規参入をためらい様子見しているとみて良さそうです。
電力小売りに参入した不動産会社は「電力に比べてガスは甘くない。参入の壁も高い」と語っています。参入を過去に検討したことは認めましたが、今後申請するかどうかは口を濁しました。

新規参入に横たわる保安業務の壁

参入を妨げる壁と考えられているのは、以下のような項目です。

  1. 既存の都市ガス会社が所有するガスの導管を利用しなければならないのに、託送料金が高いと予想される
  2. オール電化との競争で押されるなどして都市ガスの料金が下落傾向にある
  3. 天然ガスの安定した調達が必要になる

例えば、東京ガスの家庭向け料金は月間で2015年3月から1年間に1,000円以上下がりました。多くの参入障壁でコストと手間がかかるのに、家庭向けに販売して利益を上げられるのかという懸念があるのは確かでしょう。
それに加え、新規参入を検討する事業者にとって頭が痛いのが、小売業者に顧客が使うガス機器の保安業務が課せられたことです。新規参入業者も自社で契約を結んだ家庭に対して、コンロや給湯器などガス機器が正しく設置され、適切に換気が行われているかの検査をしなければならなくなりました。

ガスの保安業務に関わるには資格が必要

この業務には専門の資格が必要で、参入する事業者は人員の大量確保が求められます。必然的にコストアップは避けられません。決して低いハードルではなさそうです。
日本ガス協会は「ガス自由化の制度設計で、保安業務を大手ガス会社など既存事業者に委託できるようにした」と説明しています。大阪ガスだと大阪ガスサービスショップ、東京ガスなら東京ガスライフパルという自社系列のサービス、保安会社を持ちます。大手ガス会社へ保安業務を委託することで新規参入が可能になるというわけです。
しかし、保安業務を外部委託すれば、競合相手に業務を依存してしまいます。大手のガス会社から見ても敵に塩を送ることになります。市場を開放し、新規参入を促すためのやむを得ない措置とはいえ、実にややこしい状況なのです。

大手電力会社はLPガス業者と連携

小売事業者登録をした大手電力会社は、LPガス業者と提携しています。関西電力は岩谷産業、東京電力エナジーパートナーは日本瓦斯との連携を明らかにしました。LPガス業者が持つ保安業務のノウハウを生かすことも理由の1つとしています。
関西電力と岩谷産業は2000年に液化天然ガスの輸送を手掛ける会社を大阪府堺市に設立するなど、友好関係にありましたが、ガス自由化を機にさらに協力関係を深めることにしました。グループ企業の関電サービスに、先にあげたガス機器点検のノウハウを習得してもらい、保安業務を任せる計画。このため、岩谷産業の協力を得て、その高い専門知識を活用しようと考えているわけです。
2015年度ガス販売量は事業者向けの72万トンでしたが、2018年度には家庭向けも含めて100万トンまで伸ばす計画を立てており、関西電力は「岩谷産業はLPガス機器の保安業務で実績があり、既に必要なノウハウを持っている。これを生かし、万全の体制でガス自由化に臨みたい」としています。

日本ガス協会が消費機器調査員の講習を開始

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日本ガス協会と日本ガス機器検査協会は近々(2016年10月下旬より)、小売事業の保安業務を担当する資格者育成の講習会を開きます。ガスシステム改革で保安業務にかかわる監督者と調査員に対する教育、訓練の仕組みが刷新されたのを受けた措置です。

保安業務全体を監督する「保安業務監督者」の講習を日本ガス機器検査協会、消費機器の調査をする「消費機器調査員」の講習は日本ガス協会が受け持ちます。
このうち、日本ガス協会の講習は本年度中に18回程度予定されています。既にガス事業者などから38人の参加申し込みがありました。消費者機器の点検に必要な知識と技能を教える講習となり、社員を受講させることで異業種からの新規参入に道を開く狙いも込められています。

ガス自由化、保安業務の壁は乗り越えられるのか?

ガス自由化最大のメリットは消費者に対するサービスの向上です。この恩恵を全国に波及させるには、新規参入の活発化が望ましいと考えられています。日本ガス協会は「各社が保安業務に支障の出ない調査員を確保できるよう養成していきたい」と語っています。保安義務の壁、今後どうなっていくのか注目です。

エネチェンジでは2017年のガス自由化関連ニュースも随時発信しています。ガス自由化もぜひエネチェンジをご活用ください。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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