ガス自由化の託送料金を減額して認可、それでも新規参入に高い壁?【ガス自由化コラム】
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2017年4月にスタートするガス自由化を前に、経済産業省は新規参入の事業者が大手都市ガス会社に払うガス導管の使用料(託送料金)を認可しました。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手3社は申請時点より1立方メートル当たりの平均単価を0.35~1.80円圧縮しています。経産省ガス市場整備室は「厳密に中身を審査し、現時点で適正な額に是正した」としていますが、電力会社などからは「電力以上に託送料金が高く、参入障壁になっている」と指摘する声が出ています。
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東京地区の託送料金平均単価は20.64円
経産省によると、2016年7月に大手3社が認可申請した1立方メートル当たりの託送料金平均単価は、下記のようになっていました。
- 東京ガス(東京地区など)
- 21円89銭
- 大阪ガス
- 22円17銭
- 東邦ガス
- 19円79銭
経産省は電力・ガス取引監視等委員会の審議を経て、最大限の経営効率化を前提に原価を算定、修正を指示しました。大手3社の申請料金は高すぎるというわけで、各社が指示に従って再申請してきた託送料金を認可しています。その結果、各社の託送料金はこちらです。
- 東京ガス(東京地区など)
- 20円64銭
- 大阪ガス
- 21円81銭
- 東邦ガス
- 19円15銭
東部ガスの秋田地区、福島・茨城地区については、申請時点で不明だった卸売業者などからガスを購入した際の託送料金が新たに判明したため、これを加えて申請料金より0.70~3.10円増やすよう指示しています。
事業者 | 地区 | 1立方メートルあたりの単位 | 申請時からの増減率 |
---|---|---|---|
東京ガス | 東京地区 | 20円64銭 | ▲1.25% |
群馬地区 | 34円37銭 | ▲1.53% | |
四街道A12地区 | 74円82銭 | ▲1.80% | |
東邦ガス | 19円15銭 | ▲0.64% | |
大阪ガス | 21円81銭 | ▲0.35% | |
東部ガス | 秋田地区 | 50円23銭 | 3.10% |
福島・茨城地区 | 25円81銭 | 0.70% | |
西部ガス | 30円33銭 | ▲0.61% |
出典:経済産業省資料「託送供給約款認可申請に係る審査について」から筆者作成
▲はマイナスを示しています。
託送料金、私たち消費者への影響は?
認可された料金の実施は4月1日からですが、消費者は毎月、どれだけを託送料金に出費するようになるのでしょうか。愛知、岐阜、三重の東海3県を拠点とする東邦ガス広報部は「月間使用量が31立方メートルの標準家庭だと、1カ月のガス料金はおおむね5,400円。これに含まれる託送料金は約2,000円になる」と説明しています。
経産省は原価圧縮と11%の経営効率化を要求
託送料金は経産省令に基づき、各社が需要想定をもとに営業費用や減価償却費、法人税などを積み上げて原価を計算、はじき出しました。これが妥当かどうか、経産省が査定したわけです。
経産省の査定は需要想定や経営効率化、需給調整費などを踏まえ、進められました。その結果、東京ガスと東邦ガスに対しては、二重導管規制の緩和による需要量の減少や、ガスメーター修繕に関する取り換え数量、需給調査費の見積額を過大として減額を求めました。
大阪ガスに対しては他燃料への転換や転居による需要減が大きすぎるとしています。さらに、各社へ経産省が実現可能と推計した11%の経営効率化も要求しました。
東京ガスからは申請段階でコージェネレーションシステムなどガス導管を効率的に利用する顧客向けに割引料金を設定する計画が申請されましたが、これは認めませんでした。
ガス導管の50%以上を大手3社が所有
都市ガス小売全面自由化では、一般家庭への販売がこれまでの地域独占から自由競争に変わります。料金も各事業者がそれぞれの判断で決めます。
経産省のまとめによると、新たにガス小売事業者に登録したのは、2017年2月7日自時点で10社。このうち、関西電力、東京電力エナジーパートナー、中部電力、九州電力の大手電力4社だけが、一般家庭へのガス供給参入を予定しています。
企業名 | 所在地 | 供給予定地区 | 一般家庭への販売 |
---|---|---|---|
関西電力 | 大阪市 | 近畿 | 予定あり |
東京電力エナジーパートナー | 東京都 | 関東 | |
中部電力 | 名古屋市 | 中部 | |
九州電力 | 福岡市 | 九州 | |
国際石油開発帝石 | 東京都 | 関東・北陸 | 予定なし |
東北天然ガス | 仙台市 | 東北 | |
日本ファシリティ・ソリューションズ | 東京都 | 関東 | |
熊本みらいエル・エヌ・ジー | 熊本県八代市 | 九州 | |
筑後ガス圧送 | 福岡県久留米市 | 九州 | |
三愛石油 | 東京都 | 関東・関西・中国・九州 |
出典:経済産業省「ガス小売事業者の登録状況」
一般家庭を中心とした小口の都市ガス利用者は全国で2,900万件以上あるとされます。市場規模は2兆4,000億円。家庭向け電力市場7兆5,000億円のざっと3分の1に当たります。これまで各地域で都市ガスを販売してきた一般ガス事業者は、宮城県仙台市や滋賀県大津市など地方自治体を含め、全国で200社を上回ります。しかし、全体の販売量の約65%を大手3社が占め、ガス導管も50%以上が大手3社の所有です。いわば大手3社の寡占状態といっていい状況で、3社の託送料金次第で新規参入事業者のガス料金が左右されるわけです。
ガス料金全体の4~5割を占める託送料金
電力業界などからは大手3社の託送料金を高すぎると批判する声が上がっています。経産省の査定で減額されましたが、それでも大阪ガスの託送料金は標準家庭の小売料金のうち50.3%を占めています。東京ガス(東京地区など)は44.5%、東邦ガスも40.2%に達しました。
電力の場合も家庭向け託送料金の比率が40%を超えた地域があり、都市ガスだけが突出しているといえませんが、これでは新規参入事業者が料金を安く設定する余地が小さくなってしまいます。
この会合にオブザーバーとして出席した東京電力エナジーパートナーの佐藤美智夫常務も「このままでは新規参入が難しい」との意見を述べています。託送料金まで障壁になれば、ますます新規参入が困難になってしまうのです。
新規参入を呼び込める規制緩和が必要
ガス自由化最大のメリットは電力自由化と同様に、異業種からさまざまな新規参入事業者が生まれ、競争することにあります。その結果、価格が安くなったり、良いサービスを受けられたりするメリットを消費者が受けられます。しかし、全国津々浦々に電線網が整備済みで、卸売市場も都市ガスに比べ充実している電力に比べ、ガスは大都市圏と一部の地方都市にしか整備されていません。幹線導管の総延長はざっと5,000キロしかないのです。
経産省ガス市場整備室は「異業種から本格参入が相次ぐのはガス導管などが整備されてから」とみており、「その時点までに市場整備を進めておきたい」としています。しかし、これまでの市場整備では、新規参入事業者のメリットになると見える点はそれほど多くありません。
当面は現状のままでガス自由化をスタートせざるを得ないとしても、経産省は今後どこかの時点で、新規参入を呼び込むような規制緩和を真剣に考える必要がありそうです。
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