【ガス自由化コラム】民営化か経営改善で民間企業と対決か、ガス自由化に揺れる公営ガス

【ガス自由化コラム】民営化か経営改善で民間企業と対決か、ガス自由化に揺れる公営ガス
ガス自由化

2017年のガス自由化は都市ガスが対象となっていますが、地方自治体が管轄している公営ガスも岐路に立たされています。民営化するか、このまま競争に挑むか……公営ガスの動きを独自取材しました。

2017年4月のガス自由化を控え、地方自治体が運営する公営ガスが慌ただしい動きを見せ始めました。全国で営業中の都市ガス事業者のうち、ざっと1割超が自治体の公営ガスですが、群馬県富岡市は都市ガス事業を民間企業に譲渡することを決めたほか、新潟県柏崎市は譲渡先の公募を始めました。さらに、宮城県仙台市は将来の民営化に備え、水面下で民間企業と折衝する一方、滋賀県大津市は民間との競争に挑む意向を固めています。公営ガスはどうなるのか、その行方を探ってみました。

更新日
2016年8月9日
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富岡市は民間企業にガス事業の譲渡を決定

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群馬県南部にある富岡市は都市ガス小売りの全面自由化に合わせ、2017年4月1日付でLPガス(液化石油ガス)販売の堀川産業(本社・埼玉県草加市、堀川雅治社長)に譲渡することを決めました。譲渡価格は約20億円で、ガス管、供給設備など都市ガス関連の全資産が譲渡対象となります。堀川産業は富岡市内に支社を置き、運営開始の準備に入る予定。

富岡市は人口約5万人。1963年の開業以来50年以上にわたって市民にガスを供給してきました。顧客は現在約7,200件ありますが、全エネルギーを電気に依存するオール電化の普及などから、この10年間で1割以上少なくなっています。
富岡市は導管が首都圏とつながっていて、自由化後は多くの民間業者の進出が予想されています。このため、ガスと電気のセット販売など新サービス展開が見込まれる民間企業との競争に耐えられないと判断しました。富岡市ガス水道局は「市民の間には公営に期待する声もあるが、公営のままでは民間と競えない」としています。
堀川産業は関東甲信越を中心とする1都10県で約22万件の顧客にLPガスを販売しています。総合エネルギー企業を目指して2015年に都市ガス事業に参入し、埼玉県内で事業を展開していますが、顧客が約600件にとどまったまま。2015年9月期決算の売上高245億円のうち、7割をLPガスが占めています。
富岡市の事業を買収することで北関東に地盤を築くとともに、都市ガス事業の拡大を目指しています。同社では「事業の柱の1つに都市ガスを位置づけている。地域密着の運営で地元に貢献したい」と意気込んでいます。

柏崎市はプロポーザル方式で譲渡先を公募

新潟県中越地方の柏崎市は2018年4月1日のガス事業譲渡を目指し、2016年5月からプロポーザル方式の公募を始めました。プロポーザル方式とは自治体が事業者を選定する入札方式の1つで、民間企業が提出した提案書を審査して総合評価で受託者を決めます。
第1次の資格審査が終わり、9月に第2次の提案審査に入ります。提案した企業からヒアリングを進めるなどして年末に優先交渉権者を決定する予定です。柏崎市は応募状況について公表を避けていますが、複数の民間企業から応募があったもようです。
柏崎市は人口約8万7,000人。終戦直後の1945年から公営ガス事業を始め、2014年度で3万件近い顧客にガスを供給しています。供給区域の拡張など基盤整備がほぼ終わり、ガス自由化が段階的に進んだことから、市ガス事業検討委員会から2006年に民営化を求める答申を受けました。
しかし、2007年の新潟県中越沖地震でガス供給施設に被害が出て多額の災害復旧債を借り入れたため、民営化に向けた作業をいったん延期。その復旧債残額が2017年度末で一括返済できるめどが立ち、あらためて民間譲渡に向けて動き始めました。
柏崎市ガス水道局は「導管が首都圏とつながり、競争激化は避けられない。公営事業としての使命も果たし終えているので、後は民間に委ねたい」と狙いを語りました。

公営ガス最大手の仙台市は……?

公営ガス最大手の仙台市ガス局は2000年代後半に民営化を検討、東京ガス、石油資源開発、東北電力の3社連合と事業譲渡の交渉を進めましたが、2008年のリーマン・ショックで民営化を棚上げしていました。伊藤敬幹副市長が2015年2月の市議会で「民営化を含め検討を深める時期に来ている」と方針転回の意向を表明。2015年4月からガス局内に事業改革調整室を設け、民営化も視野に入れて検討作業を進めています。
仙台市ガス局は「今は検討中としかいえない」としていますが、水面下で民間企業と接触しているとみられています。

民営化はせずに、競争に挑むところも

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民営化ではなく、民間企業との競争に挑む構えを見せるのが、公営ガスで仙台に次ぐ顧客を抱える大津市企業局です。京阪神のベッドタウンとして人口が伸び、ガスを大量に使う工場も多いことから、利益率も都市ガス大手に引けを取りません。導管が京阪神とつながっているため、民間業者の進出は十分に予想されます。そこで市中心部に10年間開設していたガスショールームを3月で閉鎖、浮いた費用を自由化対策に充てるなど迎え撃つ態勢を整え始めました。
大津市企業局は「サービスを充実させ、市民にアピールすることで、競争を勝ち抜きたい」と話しています。

大都市圏と導管がつながっていない石川県金沢市企業局、島根県松江市ガス局は、経営改善に努めながら、様子を見る構えです。自由化後、すぐに大手の進出はないと判断しているからでしょう。
金沢市企業局は「魅力ある住民サービスとするため、料金メニューの改定に努める」、松江市ガス局は「経営改善を続けていきたい」などと語っています。

独占的なガス供給で経営が安定

公営ガスは明治時代からあり、1960年代から急速に増加しました。1975年から77年のピーク時には、寒冷地を抱える東日本を中心に75の事業者があり、都市ガスを供給していました。都市ガスの供給には導管の敷設などに多額の費用がかかります。このため、民間事業者がまだ進出できていない地域で自治体が導管を設置し、ガスの供給を進めたわけです。
しかし、天然ガスなど高カロリーガスへの転換で設備投資が多額になったうえ、市町村合併が進んだことから、民営化が次第に進み、その数が減少します。総務省公営企業経営室によると、都市ガスを供給する公営事業者は26まで減少しました。

公営ガス

出典:公営エネルギー事業の現状

公営ガスはこれまで、導管の維持、管理と小売りの両方を行い、許可された区域内で一般家庭の利用者に独占的にガスを供給してきました。ガス料金は総括原価方式といって営業費用に事業報酬を足した十分に利益の出る額で設定され、安定した経営をすることができました。
総務省が2012年度に営業していた29事業者の決算を調べたところ、純損失を出したのは4事業者に過ぎず、ほとんどが黒字経営でした。純損失の原因も高カロリー化の設備投資によるもので、総務省公営企業経営室は「経営状態は総じて安定している」とみています。

公営企業名所在地顧客件数年間販売額
由利本荘市ガス水道局秋田県由利本荘市8,263件11億1506万円
男鹿市企業局
秋田県男鹿市1万326件7億4,713万円
にかほ市ガス水道局秋田県にかほ市
5,322件
4億6,901万円
仙台市ガス局宮城県仙台市34万7,008件375億8,125万円
習志野市企業局千葉県習志野市
6万9229件70億6365万円
柏崎市ガス水道局
新潟県柏崎市2万8,182件31億7,819万円
上越市ガス水道局
新潟県上越市4万6,468件59億6,600万円
魚沼市ガス水道局新潟県魚沼市7,842件11億1,714万円
金沢市企業局石川県金沢市6万4,796件76億1,181万円
福井市企業局福井県福井市
2万5,111件34億6,851万円
大津市企業局滋賀県大津市10万634件
180億7,191万円

出典:各公営ガス2014年度決算資料

事業の抜本的な見直しが必要

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ガス自由化後は公営ガスも否応なく民間企業との競争に巻き込まれます。国の料金規制もなくなりますから、独占にあぐらを組み、都市ガス大手よりはるかに高い料金で殿様商売をすることもできません。しかも、公営ガスは国の規制がなくなっても、料金変更などに議会の承認が欠かせず、民間のような機動的な対応を取りにくい一面が残ります。区域外への供給やガス以外の事業進出にも制約があります。

福井県立大経済学部の浅沼美忠准教授(公共経済学)は「旧態依然とした公営企業のやり方では、民間との競争を勝ち抜けない。自由化で価格の内々格差やサービスの質の差が明らかになれば、利用者の不満が募ることも考えられる。民営化を含め、経営の効率化を真剣に検討する必要がある」とみています。
総務省も2014年、公営企業の経営基盤強化を促す報告書で、民営化を含めて事業のあり方を検討するよう各自治体に求めました。
大都市圏と導管がつながっていない地域では、多くの民間企業が参入すると思えませんが、オール電化の普及で電気など他のエネルギーとの競争が一層激しくなるでしょう。これまでのように安定した経営を保つには、役人感覚からの脱却が求められています。「公営ガスは危機意識を持ち、民営化や営業面への民間の力の活用などを真剣に検討すべきだ」と浅沼准教授。公営ガスを市場開放の例外にするわけにはいきません。岐路に立たされた公営ガスは、この荒波を乗り越えるため苦慮しています。

エネチェンジでは、2017年のガス自由化に向けても積極的に情報発信をしていきます。ガス自由化でもエネチェンジをぜひご活用ください。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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