「産廃の島」を襲う太陽光発電計画、香川県のガイドラインでは防げない【エネルギー自由化コラム】

「産廃の島」を襲う太陽光発電計画、香川県のガイドラインでは防げない【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

香川県の豊島(てしま)では、太陽光発電による自然破壊に反対運動が起こるなか、設置に関するガイドライン案をまとめました。しかし、このガイドラインは法的に強制力を持ちません。FIT法により太陽光発電の設置が促進されているなか、全国で反対運動も拡大しています。詳細をお伝えします。

瀬戸内海に浮かぶ香川県土庄町の豊島(てしま)で太陽光発電計画に対する住民の反対運動が続く中、香川県が太陽光発電の適切な設置を業者に促す独自のガイドライン案をまとめました。事前の事業計画書提出や住民説明会の開催結果などについて報告を求める内容で、3月中に最終決定し、4月から運用に入る方針。

しかし、経済産業省の事業認定を受けている豊島のケースは適用外で、法的拘束力も持たないことから、計画を止めるのは難しいようです。

瀬戸内海を見渡す景勝地で太陽光発電計画

太陽光発電所の計画地近くに豊島自治連合会が立てた建設反対の看板(筆者撮影)
香川県高松市や岡山県玉野市からフェリーが着く豊島の家浦港から車で約15分、唐櫃地区の崖の上を走る道路横に、豊島自治連合会が設置した大きな看板が立てられています。書かれた文字は「太陽光発電所計画に反対!」。通行のドライバーによく分かるよう大きな文字が目立つ看板です。道路からは小豆島や小豊島など瀬戸内海の島々が見えます。

瀬戸内海国立公園の美しさがひと目で分かる場所なのですが、広島県の業者が太陽光発電の設置を計画しているのが、その崖の下です。かつてはこの場所にヘリポートが設けられていました。

計画出力は750キロワット。5,000~6,000平方メートルの土地に約3,600枚のパネルを敷き詰める計画です。既に中国電力との間で売買契約が結ばれており、現場は周囲の山林を含めて約1.2ヘクタールが切り開かれ、裸地が広がっています。

産廃撤去が一段落した段階で新たな難題

豊島は人口約800人、面積14.4平方キロの小さな島です。基幹産業は農業と漁業。美術館などが整備されて瀬戸内国際芸術祭の舞台になり、外国人観光客の注目を集めています。しかし、豊島は汚染土壌を含めると90万トン以上にも及ぶ大量の産業廃棄物が不法投棄され、住民が約40年にわたって反対運動を繰り広げてきた辛い過去を持っているのです。

長く「産廃の島」というありがたくない名前をつけられ、全国に知られていました。公害調停の結果、産業廃棄物の撤去が進み、ようやく一段落したときに持ち上がったのが、太陽光発電の設置計画です。

豊島自治連合会のアンケートで住民の大半が反対の意向を示しました。豊島自治連合会の三宅忠治会長は「人口減少と高齢化が進み、観光産業に新たな活路を見いだそうとしているのに、山林が伐採され、太陽光発電が設置されたのでは景観が台なしになる」と憤りを隠しません。

豊島産業廃棄物問題の経緯

1975豊島総合観光開発が産業廃棄物処理業の許可を香川県に申請
1978香川県が豊島総合観光開発に産業廃棄物運搬業、処理業の許可。豊島総合観光開発は土砂採取跡地に無害な産業廃棄物を利用してミミズを養殖するとして不法投棄を始める
1990兵庫県警がミミズ養殖を騙る産業廃棄物の不法投棄の疑いで摘発。香川県が豊島総合観光開発の産業廃棄物処理業許可を取り消し、撤去の措置命令
1991兵庫県警が経営者らを逮捕。神戸地裁姫路支部が豊島総合観光開発と経営者らに有罪判決
1993豊島の住民が香川県知事に公害調停を申請
1996豊島の住民が高松地裁に豊島総合観光開発に対する損害賠償を提訴。高松地裁が豊島総合観光開発に慰謝料の支払いと産業廃棄物の撤去を求める住民勝訴の判決
1997豊島総合観光開発に破産宣告
2000公害調停が成立。香川県知事が謝罪し、原状回復で合意
201790万トンを超す産業廃棄物の撤去が完了
出典:豊島自治連合会、瀬戸内オリーブ基金資料などから筆者作成

反対運動の中、業者は春にも着工の構え

現場は広島県の別の業者が2017年、太陽光発電設置のために周囲の山林を切り開いたあと、2018年に現在の業者に事業譲渡しました。これに対し、住民は現場に産業廃棄物のコンクリート片や汚泥があるなどとして香川県警に告発、香川県にも中止を指導するよう求めたため、工事が一時ストップしていました。

コンクリート片などは香川県の指導で除去されました。汚泥については香川県が「ない」と明言しています。これを受け、業者の代理人らが1月末、現地を視察し、早ければ春にも工事にかかる考えを示しました。

住民の反対を押し切って設置工事に入る公算が大きくなっていますが、香川県警の捜査はまだ継続しています。三宅会長は「県警の捜査を見守りながら、粘り強く反対運動を続けていきたい」と語りました。

香川県はガイドラインの詰めの作業に

香川県のガイドライン案は建物への設置を除いて出力50キロワット以上の太陽光発電施設が対象。事業者は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を定めたFIT法に基づき、経産省に事業計画の認定を申請しなければなりませんが、その前に香川県に対し事業計画書の提出を求めています。

計画書の受理後、香川県は住民説明会の開催や各家庭の戸別訪問などで住民の意見を聞き、その内容を報告書として提出するよう働きかけます。設置場所を決める際には、災害防止や自然環境保護のための考慮が必要と明記しました。さらに事業を廃止する場合は廃止理由や設備の撤去予定を記入した事業廃止届の提出を求めます。

ガイドライン案に対するパブリックコメントが1月まで募集されました。香川県は寄せられた意見も参考にして、内容の最終的な詰めの作業を進めています。

設置に関してはガイドラインの対象外

太陽光発電設置のガイドラインを策定した都道府県は、山梨県や高知県など5県あり、香川県が制定すれば全国で6番目になります。急いで対応を進める背景には業者と住民の対立が続く豊島の事例があることは間違いありません。

しかし、豊島の事業計画は4年前に認定を受けました。このため、設置についてはガイドラインの対象外になります。香川県は維持管理や撤去に関する項目が適用可能だとして、設置後にトラブルが発生しないようチェックする考えです。

香川県環境政策課は「太陽光発電が地域と共生できるようにするため、ガイドラインを策定する。豊島のケースもすべてが対象外ではないので、適用できる部分を活用したい」と述べました。

住民の反対運動は全国で拡大中

太陽光発電の設置件数は2012年のFIT制度導入後、急激に増加しています。経産省によると、FIT認定された太陽光発電は2017年末までで約6,500万キロワットに上ります。その大半が山林、農地など住宅以外に設置された施設で、認定された施設のざっと半分は稼働しておらず、今後動きだすことが十分に考えられます。

年度別FIT認定太陽光発電(出力10kW以上)の稼働状況 (単位・万kW)

認定年度
既稼働未稼働
合計
2012年度1,130.0 350.9
1,480.9
2013年度1,328.9
1,310.2
2,639.1
2014年度 506.4
742.61,249.1
2015年度167.9183.0 350.9
2016年度122.5
671.3
793.8
2017年度 7.220.4 27.5
合計3,262.9
3,278.4
6,541.3
出典:経済産業省「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた今後の論点」(注)2017年度は4~12月の集計

NPO法人太陽光発電所ネットワークの調査によると、山林などに設置される大規模太陽光発電に対し、全国で反対運動が起きています。理由は豊島のような景観保護のほか、自然破壊、山林保護などさまざまで、「エコが売り物の太陽光発電がなぜ、山林を伐採して自然を破壊するのか」という疑問があちこちで上がっています。

2018年夏の西日本豪雨では、兵庫県姫路市で傾斜地に設置された太陽光パネルが大量に崩落したほか、神戸市須磨区で起きた太陽光パネルの崩落では山陽新幹線の運行が一時ストップする事態になりました。パネルが水没すると感電の恐れがあることも、住民の不安をさらにかき立てています。

最近の主な太陽光発電反対運動

栃木県日光市市民団体が反対署名6,931人分を市議会に提出
三重県志摩市地元住民、漁協が中止を求める要望書
高知県土佐清水市大岐地区の新設計画で住民が市へ指導要望
鹿児島県霧島市
17団体と個人が施設建設への不同意書を県に提出
京都府南山城村
メガソーラー建設に地元自治会が反対
栃木県鹿沼市
市民団体が市へ建設差し止めを求める署名提出
岡山県岡山市
市内の山林で浮上した整備計画に住民が反対の声
長野県飯田市風越山での整備計画に住民が中止要望書を市に提出
静岡県伊東市
八幡野地区の設置計画に市議会が反対決議
福岡県飯塚市
白旗山での計画に対し、住民が反対署名を市に提出
滋賀県高島市
メガソーラー建設反対の署名を住民が市に提出
出典:NPO法人太陽光発電所ネットワーク「事業用太陽光発電施設等に対する地方自治体の条例等の制改訂状況の調査報告」などから筆者作成

ガイドラインでの抑制には限界が

業者の中には地球温暖化の防止などエコ目的で採算を度外視しているところもありますが、大半は売電で得られる利益を当てにした投資目的とみられます。環境保全など二の次というわけで、土砂流出や景観破壊の可能性がある場所にもパネルを設置しています。

これに対し、自治体が制定する条例やガイドラインは一定の歯止めになったとしても、強制力を持たないものが多く、建設強行をストップさせる手立てになりにくいのが実情です。このため、山梨県議会は2018年、国に対して太陽光発電施設の立地規制強化と事業終了時の設備廃棄の仕組み構築を求める意見書を全会一致で可決しました。

環境省は1月、30メガワット以上の大規模太陽光発電施設を環境影響評価の対象とする考えを有識者会議に示しました。政令改正で早ければ2020年から導入したい意向です。しかし、FIT法自体が太陽光発電による自然破壊を想定せず、設置を促進するだけの内容になっています。第2、第3の豊島を生まないために、何らかの対応が求められそうです。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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