都市ガススイッチングは近畿を除いて低調、消費者はなぜ関心を示さないのか【ガス自由化コラム】
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盛り上がりを欠くといわれている都市ガス小売りの全面自由化。4月の自由化で多くの業者が新規参入し、消費者がその中から自由に購入先を選べるという触れ込みでしたが、実際はそうなっていません。経済産業省がまとめた購入先切り替え(スイッチング)状況を見ても、関西電力と大阪ガスが激突した近畿地区が全体の7割近くを占め、その他の地域では消費者の関心が低いままです。本格的な自由競争の恩恵を消費者が受けるには、もうしばらく時間がかかりそうです。
全国約24万件の65%が近畿地方
地域 | 申込件数 |
---|---|
北海道 | - |
東北 | - |
関東 | 31,829 |
中部・北陸 | 35,400 |
近畿 | 156,298 |
中国・四国 | - |
九州・沖縄 | 15,938 |
合計 | 239,465 |
出典:経済産業省ガス市場整備室
経済産業省によると、全国で都市ガス購入先切り替えを申し込んだのは、6月2日現在で23万9,465件。2016年4月にスタートした電力自由化だと、電力広域的運営推進機関のまとめで1年間に約343万件の切り替えがあっただけに、少々寂しい出足といえます。
購入先切り替えを申し込んだうち、近畿地区が15万6,298件で、全体の65.3%を占めています。中部・北陸地区の3万5,400件、関東地区の3万1,829件、九州・沖縄地区の1万5,938件と続きます。
北海道、東北、中国・四国の各地区は一般家庭向けの新規参入企業がなく、消費者が購入先を選べません。人口が最も多い関東地区が中部・北陸地区より切り替え申し込み件数が少ないこともあり、盛り上がっているのは近畿地区だけといえる状況です。
一般家庭向け新規参入も10社余り
電力の小売事業者として登録している企業は400社近く、都市ガス、石油、通信、鉄道、不動産、地方自治体など幅広い業界から新規参入が続いています。電気に対しては消費者が自由に購入先を選べているわけです。
これに対し、都市ガスの小売事業者として登録しているのは50社足らず。しかも、一般家庭向け販売に新規参入したのはわずか10社余りにすぎません。7月から参入予定の東京電力エナジーパートナー(EP)のように、まだ本格的に動きだしていないところもあります。
参入企業の業種も電力大手とLP(液化石油)ガス業界に限定されます。電力自由化と異なり、エネルギー産業以外からの参入が見られないのです。
参入障壁について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
近畿地方は年明けから激しいPR合戦
大阪ガスより安い料金で勝負をかけた関西電力
関西電力は電力自由化から1年余りで大阪ガスに32万件の顧客を奪われました。このため、顧客を取り返す絶好の機会が今回のガス自由化と位置づけ、大阪ガスより安い料金で勝負をかけています。
販売促進と保安面ではLPガス大手の岩谷産業と提携、「関電ガスサポートショップ」を80店開設し、約300人のスタッフが攻勢をかけてきました。関西電力の初年度目標は20万件。関西電力は「今のところ、顧客獲得は順調」と胸を張ります。
今後は福井県の高浜原発再稼働に伴い、電気料金を引き下げる方針。電気とガスのセット料金も安くしてさらに顧客獲得に力を入れる考えです。
大阪ガスも料金・サービス面を見直し対抗
受けて立つ大阪ガスも手をこまねいているわけではありません。料金を引き下げただけでなく、サービス面も向上させて顧客を引き留めようとしています。給湯器の故障など住まいのトラブルに無料で駆けつける新サービスが好評で、安心と安全を前面に打ち出して関西電力の攻勢に対抗しているのです。
原発再稼働に伴う関西電力のセット料金値下げに対しては、対抗策を講じるもよう。今後の方針についてはまだ明らかにしていませんが、大阪ガスは「購入先切り替え件数を非常に大きな数字と受け止めている。今後、さらに競争が激化すると予測され、気を引き締めて信頼を高めていきたい」と述べました。
値下げ競争第2ラウンドに突入か
値下げ競争も含めた関西電力と大阪ガスの激突は、これからが第2ラウンドといった様相。近畿を代表する2大企業が面子をかけて正面からぶつかるだけに、これからどのような手を打ってくるのか、ますます目を離せない状況になってきました。しかし、近畿以外は静かなまま。それは都市ガスへの参入に大きな障壁があるからです。
導管整備の遅れなど新規参入には厚い壁
全国に電線網が張り巡らされ、卸売市場が誕生している電力と異なり、都市ガスの市場整備は遅れています。卸売市場がないため、新規参入するには独自に天然ガスを調達しなければなりません。
ガス導管が整備されているのは大都市圏がほとんど。都市間を輸送する幹線導管の整備が遅れ、首都圏と中部地方もつながっていません。保安点検が義務づけられたため、要員確保が必要で、導管の使用料金も安くありません。コスト高につながる要因は少なくないのです。
一般家庭へのガス販売はもともと、薄利多売の商売であるうえ、これらが異業種からの新規参入を妨げる大きな壁になっているわけです。電力自由化に歩調を合わせるため、市場整備を後回しにしたことが大きな影響を与えたといえそうです。
消費者に届かぬ自由化のメリット
調査会社のクロス・マーケティングが関東1都3県、近畿2府2県在住の消費者を対象に実施したアンケート調査では、ガス自由化に対する関心の低さが浮き彫りになりました。調査は4月28日から5月1日にかけて行われ、2,000の有効回答を得ました。
認知度71.5%も「魅力を感じない」
それによると、都市ガス小売りの全面自由化については71.5%が内容について認知していました。しかし、ガス自由化に「魅力あり」と答えたのは20.7%で、「魅力なし」とした47.7%を大きく下回りました。電力自由化の際の調査では、「魅力あり」が34.1%、「魅力なし」が39.6%だったのに比べ、魅力を感じない消費者の比率が高まっています。
電力自由化に比べて反応鈍く、切り替え「意向なし」が42%
切り替える理由、メリットを感じていない消費者
切り替えない理由としては「現状に不満がない」が38.9%で最も多く、「メリットが考えられない」30.0%、「ガス代が抑えられると思えない」28.9%、「手続きが面倒」23.6%と続きました。
ガス自由化のイメージは否定的
クロス・マーケティングでは「都市ガスは必要な場面でしか消費しないため、電力ほど現状に不満が出にくいことも一因でないか」と分析しています。
市場整備とお得感増大が必要
ガス自由化は新たな市場を広く開放するとともに、恩恵を消費者に広げる目的で進められています。成果を上げるためには、国が市場整備を急いで新規参入を促す一方、参入企業が都市ガス料金以外の部分でもっとお得感を打ち出す必要がありそうです。