電力大手が4月に発送電の法的分離、電力システム改革は総仕上げに【エネルギー自由化コラム】
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電力大手に発電・小売り部門と送配電部門の別会社化を義務付ける改正電気事業法の法的分離が4月に実施されます。法的分離を先取りする形で2016年に会社を分割した東京電力、当面発送電一貫を保つ沖縄電力を除く電力大手8社は、送配電の新会社を設立して法的分離に備えています。これにより、電力大手が地域ごとに発電から送配電まで一貫して担ってきた旧来のシステムが完全に終わり、電力業界は新たな時代に入ります。
関西電力は関西電力送配電が送配電事業を承継
関西電力は発電、小売り事業を運営する事業持ち株会社となり、2019年に設立した「関西電力送配電」が4月から送配電事業を承継します。関西電力送配電は関西電力が100%出資した子会社です。
2019年の関西電力株主総会で事業の吸収分割契約が承認されました。関西電力送配電は「あとはスケジュールに従って事業承継を待つだけ。4月からは中立性を保ちながら、電力の安定供給に努めたい」と述べました。
四国電力も2019年、送配電事業を承継する「四国電力送配電」を設立しました。事業の吸収分割契約が株主総会で承認されており、四国電力は「別会社になっても果たすべき役割は変わらない。これまで通りに電力を安定して消費者のもとへ届けてもらえるようにする」としています。
発電と小売り部門を本体に残し、送配電事業を任せる新会社を設立する方式は、今回法的分離に動く電力大手8社のうち、中部電力を除く7社が採用しました。
中部電力は送配電、小売部門を分社化
中部電力は送配電事業を受け持つ中部電力パワーグリッドだけでなく、小売り部門を担当する中部電力ミライズを設立し、4月からそれぞれの事業を移します。小売り部門を加えたのはさまざまな業者との協業などで事業拡大とサービス水準の向上を図るためとしています。
火力発電部門は、東京電力グループとの折半出資で設立したJERAに2019年、分割しています。このため、本体に残るのは、グループの運営機能と原子力発電部門、再生可能エネルギー部門だけになります。
沖縄電力は本土から独立した小規模の電力系統で、地域をまたいだ競争が当分の間見込めないことから、発送電分離が将来的課題となりました。経済産業省は沖縄地区で小売り事業者の新規参入や多様な電力メニューの提供を先に実現すべきと考えています。
東京電力グループは2016年に発送電分離を先取り
東京電力は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づく新・総合特別事業計画が2014年に政府から認定されたのを受け、2016年に会社分割をしてホールディングカンパニー制に移行しました。法的分離を先取りした形です。
持ち株会社の東京電力ホールディングスが福島原発事故の賠償や廃炉、除染、復興事業に責任を持ち、グループ全体の経営戦略策定や経営資源の再配分などでグループの競争力向上に努めています。
燃料・火力発電事業部門は「東京電力フュエル&パワー」、送配電事業は「東京電力パワーグリッド」、小売り事業部門は「東京電力エナジーパートナー」がそれぞれ承継し、事業を進めています。
発電、小売事業 | 一般送配電事業 | |
---|---|---|
北海道 | 北海道電力 | 北海道電力ネットワーク |
東北 | 東北電力 | 東北電力ネットワーク |
東京 | 東京電力フュエル&パワー、東京電力エナジーパートナー | 東京電力パワーグリッド |
北陸 | 北陸電力 | 北陸電力送配電 |
中部 | 中部電力、中部電力ミライズ | 中部電力パワーグリッド |
関西 | 関西電力 | 関西電力送配電 |
中国 | 中国電力 | 中国電力ネットワーク |
四国 | 四国電力 | 四国電力送配電 |
九州 | 九州電力 | 九州電力送配電 |
法的分離の狙いは新規参入のハードル低下
送配電部門の法的分離は、2013年に閣議決定された電力システムに関する改革方針で、多様な電源を利用する広域的系統運用の拡大、小売りの全面自由化とともに、3本柱の1つに位置づけられ、2015年の電気事業法改正で正式に決まりました。
第1弾の広域的系統運用の拡大では2015年、電力広域的運営推進機関が設立され、全国規模で需給調整の司令塔役を果たしています。第2弾の電力小売り全面自由化は2016年にスタートし、先行する企業向けに続いて一般家庭向け電力もすべて自由にメニューを選べるようになりました。
そして、電力システム改革の総仕上げになるのが、送配電部門の法的分離です。送配電部門と小売りなど別部門の会計を分ける会計分離が2003年、導入されていますが、送配電網の公平な利用を徹底するため、法的分離で送配電部門の中立性をより高めるわけです。
小売り自由化で電力大手や新電力が電力販売の全国展開を始めました。自前の送配電網を持たない地域では、その地域の電力大手に託送料金を支払い、送配電網を利用しています。小売りは自由化で新規参入を促しましたが、送配電は既存の送配電網をより活用しやすくすることで新規参入のハードルを下げる狙いがあります。
二重投資を避けるため、送配電の地域独占は存続
電力システム改革以前の日本の電気事業は、関東に東京電力、近畿に関西電力など各地域に1つの電力大手があり、発電から送配電、小売りまでを独占して一手に受け持っていました。
小売り料金は発電や送電にかかったコストに応じて金額が決まる総括原価方式を採用し、設備投資に使った費用が確実に回収される仕組みとなっていました。電力大手の経営を安定させ、全国各地にあまねく電気を普及させるためです。
しかし、この仕組みは経営の効率化という点で考えると、好ましいものではありません。さらに、東日本大震災では福島原発の事故で首都圏が深刻な電力不足に陥り、前例のない需要抑制策として計画停電が実施されました。電気料金も大きく上昇して旧来の電力システムのほころびが見える形となり、改革が一気に進んだのです。
ただ、送配電を自由化したのでは二重投資の無駄が生じる可能性が出てきます。電線や電柱の整備、保守点検業務はスケールメリットを考慮すると、1社で一元的に進める方が効率的です。そこで、地域独占の形を残しながら、発電や小売り事業者との法的分離が進められることになりました。
競争激化を消費者のメリットに
都市ガス、通信、交通、液化石油ガスなどさまざまな業界から新規参入が続き、首都圏と近畿を中心に電力大手と激しい販売競争を続けています。
その結果、より安い電力がさまざまな付帯サービスとともに、消費者に提供されるようになりました。
送配電部門の法的分離でさらに参入のハードルが下がれば、業界がこれまで以上に活気づき、消費者により多くのメリットがもたらされる可能性があります。
電力に続いて2017年に都市ガス小売りが全面自由化され、業界は大競争時代を迎えています。この競争を消費者のメリットにつなげる鍵の1つが、送配電部門の法的分離なのです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。