地産が地消に追いつかない、自治体電力に産みの苦しみ【エネルギー自由化コラム】

地産が地消に追いつかない、自治体電力に産みの苦しみ【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

エネルギーの地産地消を目指して設立された各地の自治体電力が、地産が地消に追いつかず、電力卸市場からの調達に依存せざるを得ない状態が続いています。

エネルギーの地産地消を目指し、全国各地で設立された自治体電力が、電力卸市場からの調達に依存するケースが後を絶ちません。太陽光発電を電源の中核とするところが多いため、夜間の電力需要が大きい一般家庭への販売を始めると、自前の電力が使えなくなることも一因です。いわば地産が地消に追いつかない状態なわけで、限られた予算の中で新たな電源確保を模索しています。

一般家庭向け販売で地産電力の比率が低下

自治体電力の草分けが、群馬県中之条町の中之条電力です。電力小売り事業は子会社の中之条パワーが担っています。中之条電力は2013年、全国初の自治体電力として町が出資して誕生しました。再生可能エネルギーの活用や電力の地産地消を通じ、地域振興に寄与することを目的としています。

電源として確保したのは、町内3カ所にあるメガソーラーです。ともに出力2メガワットの沢渡温泉第1、第2の両太陽光発電所と、出力1メガワットのバイテック中之条太陽光発電所で、不足分は電力卸市場から調達してきました。

当初は夜間の需要が少ない町役場など公共施設に販売していましたから、総販売量に占める地産の再生可能エネルギー比率は50%前後を維持していました。しかし、2016年9月から一般家庭に供給を始めると、夜間の電力需要が高まります。その結果、2016年度の地産電力が占める割合は41.4%に低下しました。

小水力導入も解決には時間が必要

このため、地産電力の確保が大きな課題に浮上してきました。解決策の第一歩となるのが、2017年に稼働した美野原小水力発電所です。四万川から取水する美野原用水の途中に取水口と水槽を設けた施設で、最大出力135キロワット。規模は大きくありませんが、メガソーラーと違って夜間も発電することができます。

小水力導入と同時に新たにメガソーラー沢渡温泉第3太陽光発電所(約2メガワット)と契約したほか、間伐材を使った木質バイオマス発電所の建設や県が所有する水力発電所との契約も視野に入れています。しかし、バイオマス建設や水力発電の契約はまだ実現のめどが立っていません。

中之条電力は「町内産の電力で100%まかなうという将来の目標を持っているが、実現にはもう少し時間がかかりそう」と述べました。

電力の地産地消を目指し、自治体が続々と参入

経済産業省によると、2017年末現在で小売電力事業者に登録した新電力は全国449社に及びます。このうち、自治体電力は中之条パワーなど約25社。地域内の公共施設や企業向けに販売するケースが多い中、一般家庭向けに販売する自治体電力も増えてきました。

自治体が出資する主な地域新電力

事業者名出資自治体提供可能地区
やまがた新電力山形県山形県
中之条パワー群馬県中之条町中之条町
CHIBAむつざわエナジー千葉県睦沢町千葉県
浜松新電力浜松市浜松市
泉佐野電力大阪府泉佐野市大阪府
いこま市民パワー奈良県生駒市生駒市
とっとり市民電力鳥取県鳥取市鳥取県
北九州パワー北九州市九州
みやまスマートエネルギー福岡県みやま市九州
いちき串木野電力鹿児島県いちき串木野市九州

出典:経済産業省「登録小売電力事業者一覧」などから筆者作成

出資した自治体は都道府県、政令指定都市から一般市町村までさまざま。東京都環境公社のように既存の公的組織が小売事業者登録する例もあります。

自治体電力の多くが地元の再生可能エネルギーを使い、地域の自立を目指しています。中には、自治体電力自らが収益を活用し、福祉など住民サービスを進める例が出てきました。現在、設立を検討中の自治体も多く、今後自治体電力はさらに増えそうです。

浜松はバイオマス発電の導入も

一般家庭への電力供給をしていない自治体電力の中には、地産の再生可能エネルギー比率が高いところがあります。浜松市が出資する浜松新電力がその代表例で、運営を委託されているNTTファシリティーズによると、2016、2017年度とも80%を超えています。

電源は出力1,500キロワットの浜名湖太陽光東発電所など市内各地にあるメガソーラーと、ごみ焼却の余熱で発電している2,800キロワットの市南部清掃工場発電所が中心です。2019年度からは一般家庭への供給を始める予定で、浜松市エネルギー政策課は「夜間の需要拡大に備え、太陽光以外の電源確保の拡大を進めたい」といっています。

山形県が出資するやまがた新電力は県内116の公共施設などに販売していますが、2017年度で販売電力の82.5%を地元の再生可能エネルギーで賄いました。契約している発電施設は太陽光20施設を含む計25施設に及びます。

一般家庭への販売をせず、多くの施設と契約していることが地産電源の比率を高めたようで、山形県エネルギー政策推進課は「再生可能エネルギーの比率を高く保つのが目標。販売先に応じた電源構成を考えている」と説明しています。

大都市圏の自治体電力は電源確保に苦戦

大阪ガスなどといこま市民パワーを設立した奈良県生駒市役所。地産電源の確保に住宅用太陽光発電を狙っている(筆者撮影)
これに対し、メガソーラーなど大型の発電施設が地元に少ない大都市圏の自治体電力は、地産電力の確保に苦労しています。大阪のベッドタウンとして発展している奈良県生駒市は2017年、大阪ガスや地元企業、市民団体と新電力のいこま市民パワーを設立しましたが、地産電源率は8%ほどです。

供給は2017年12月から市内53の公共施設、2018年2月から民間事業者に向けスタートさせました。しかし、市や市民団体が所有する太陽光発電施設は小型で、追いつかないのが現状。2019年度をめどに一般家庭への供給を始める予定で、生駒市環境モデル都市推進課は「市内の民間事業者が所有する太陽光発電や固定価格買取期間が終わった住宅用太陽光発電の買い取りなども検討し、地産の電力を増やしたい」と話しています。

大阪府泉佐野市が出資した泉佐野電力も悩みは同じです。電源構成に占める地産の太陽光発電は2017年4~12月で17.4%にとどまり、電力卸売市場から調達する電力が大半を占めています。

泉佐野電力は将来、一般家庭への電力供給を考えているだけに、「2017年9月から近隣都市の太陽光発電を集める一方、事務所の屋上に太陽光発電を設置する計画だが、電源確保に頭が痛い」と厳しい口調で語りました。

一般家庭への販売が再エネ率を引き下げ

地方でも一般家庭に電力を供給する自治体電力は苦戦が続きます。鳥取市が出資するとっとり市民電力は2016年度で電源構成の40%ほどを地産の再生可能エネルギーが占めていましたが、集計中の2017年度はさらに下回る見通しです。

鳥取市経済・雇用戦略課は「予想以上に契約が増え、地産電力が追いつかいない」と頭を痛めています。今後は水力など他の再生可能エネルギーの確保に力を入れる方針です。

早くから一般家庭への販売を始めた福岡県みやま市出資のみやまスマートエネルギーは、債務超過の厳しい経営状態になる中、再生可能エネルギーの比率が3割を切るなど、苦しい状況が続いています。

地域自立に向け、自治体の苦悩続く

2011年の東日本大震災以降、多くの住宅用、事業用太陽光発電が誕生し、電力の地産が実現しました。しかし、太陽光発電は夜間に発電量がゼロになるという弱点を持ちます。太陽光発電だけに依存する限り、電力卸市場からの調達に依存せざるを得ないのです。

太陽光発電で大手電力会社に電気を売るだけでは、地域への還元効果が十分といえません。逆に電力市場から大半を調達し、地域内で販売したのでは、再生可能エネルギーで地域が自立するという本来の目的を外れることになります。

目的を達成し、地域に還元するためには、地産地消の輪をつなげることが欠かせません。自治体電力にとって産みの苦しみの時期が続いているようです。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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