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NTTが再エネ事業に本格参入へ、自前の送電網と蓄電池整備で電力を地産地消【エネルギー自由化コラム】

NTTが再エネ事業に本格参入へ、自前の送電網と蓄電池整備で電力を地産地消【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

NTTグループが再生可能エネルギー事業にグループを挙げて本格参入することになりました。2030年度までに自前の送電網を整備するとともに、全国の電話局に再エネの受け皿となる蓄電池を配備、電力供給する計画です。独自の送電網を全国展開する能力を持つ企業の参入は電力自由化後初めてといえるだけに、電力業界の競争環境を大きく変える可能性を秘めています。

再エネ売上高、2025年度で6,000億円が目標

NTTグループは新中期経営計画に基づき、ICT(情報通信技術)を活用した社会的課題の解決に取り組んできましたが、2019年に環境・エネルギー分野でスマートエネルギー事業を展開する方針を打ち出しました。グループ内の人や技術、資産を活用し、新たな事業を創出する狙いも持っています。

事業の柱に考えているのは、

  1. 再エネを活用したグリーン電力発電事業
  2. 蓄電池からの放電による電力供給、蓄電池を活用した需要コントロールなどVPP事業
  3. 蓄電池を活用した電気自動車(EV)充電、EVからの給電など高度EVステーション事業
  4. 災害状況に応じて最適な非常用電力を提供するバックアップ電源事業
  5. 低環境負荷の電力を提供する電力小売・卸売事業

の5つです。

NTTグループはこれまで、建築物・電力設備設計のNTTファシリティーズ、新電力のエネット、太陽光発電の可視化サービスを進めるNTTスマイルエナジーのグループ内3社を中心にエネルギー関連事業を展開し、大阪ガス、東京ガスなどエネルギー企業と連携することで3,000億円規模まで売り上げを伸ばしてきました。

グループを挙げて本格参入することにより、2025年度に6,000億円規模まで売り上げを伸ばす目標を立てています。

事業推進会社が2019年にスタート

スマートエネルギー事業の推進会社として、2019年6月に設立されたのが、NTTアノードエナジーです。本社を東京都千代田区大手町に置き、資本金約79億円。NTTの100%子会社で、スマートエネルギーソリューションやエネルギーマネジメントシステムの開発、パートナー企業の開拓を主な事業としています。

2019年9月にNTTスマイルエナジー、10月にエネットの株式を取得し、子会社としました。さらに、NTTグループ内の連携体制を整え、スマートエネルギー事業の司令塔役を務めます。

NTTグループはもともと官営の通信会社だったことから、全国に電話局と電話線網を保有しています。これにグループが持つ送配電や蓄電の技術、新たに開発するICTプラットフォームを組み合わせて電力事業を進める考えです。

三菱商事との協業検討で合意

スマートエネルギー事業を推進するために2020年6月、NTTアノードエナジーが三菱商事とエネルギー分野での協業検討で合意しました。NTTと三菱商事が2019年末に合意した業務提携の一環です。

両社の協業に向けた具体的な取り組みとして掲げているのは、再エネ発電事業です。三菱商事は気候変動への対応や水資源の確保など環境課題を事業戦略上の重要な項目と位置づけ、世界各地で再エネ発電事業に参入しています。

両社は国内外の再エネ発電事業への共同出資、再エネ発電事業からNTTグループの施設などへの電力供給の可能性を検討します。

NTTアノードエナジーと三菱商事、エネルギー分野での協業検討の仕組み

NTTアノードエナジー提供

蓄電池でエネルギーマネジメント

徳島県徳島市西大工町にあるNTT徳島支店。NTTグループは旧電話局に蓄電池を置き、再エネ電力の受け皿とすることを計画している(筆者撮影)

蓄電池を生かしたエネルギーマネジメント事業も検討します。例えば、全国に約7,300あるNTTグループの旧電話局は通信機器の小型化で空きスペースが広がっています。このスペースをフルに活用し、蓄電池を配備して再エネ電力の受け皿にするわけです。

それに加え、電力大手と別系統の電力送配の仕組み作りにも知恵を絞る方針です。全国の電話局から自前の送電網を利用して電力供給することを目指しており、電力供給先としてはNTTグループの施設に加え、地方自治体や全国に1万4,000店以上ある三菱商事グループのコンビニエンスストア・ローソンの店舗が想定されています。

近年、自然災害が大規模化し、ほとんど毎年のように地震や水害、台風で広域の停電が発生しています。災害時に携帯電話が不通となる原因のざっと7割は停電といわれています。送電網が複数存在すれば、そうしたリスク回避に期待が持てます。

より大きな電力インフラの姿を視野に

NTTグループは電力自由化でKDDIやソフトバンクが携帯電話と組み合わせる格好で電力小売り事業に参入した際、足並みをそろえませんでした。しかし、今回の計画を見ると、より大きな電力インフラの新しい姿を視野に入れていることが分かります。

再エネは天候や時間帯によって発電量が増減する弱点を持ちます。これを克服するのに必要なのは、デジタル技術を駆使して多数の再エネ発電所で作る電力を集め、消費側の使用量を増減させることです。通信とデジタルを本業とするNTTグループが強みを持つ分野です。

通信事業は携帯電話がおおむね生き渡ったうえ、人口減少が続いていることもあり、成長鈍化に直面していますが、送電網から電力データを手に入れられれば、通信データとかけ合わせて新たなビジネスを誕生させることが期待できそうです。スマートエネルギー事業はNTTグループの次の時代の主力事業に成長する可能性を秘めているのです。

経産省の再エネ目標達成にも追い風

NTTグループの電力参入は各方面にさまざまな波紋を投げかけそうです。経済産業省は2030年の電源構成に占める再エネ比率を22~24%程度とする目標を掲げていますが、目標達成に現実味を持たせる動きといえるでしょう。

NTTグループの現在の再エネ発電容量は30万キロワット程度です。これに対し、開発目標として掲げているのは700万キロワット以上です。電力大手の東京電力ホールディングスが2030年代前半までの目標として掲げる200万~300万キロワットを大きくしのぐからです。

遠隔地の石炭火力や原子力発電所から送電網を使って消費地へ電力を運ぶこれまでの形から、分散型エネルギーの再エネを生かし、エネルギーの地産地消に切り替えるきっかけとなることも考えられます。

再エネ拡大へきっかけになる可能性も

電力自由化がスタートしても既存の電力大手主導で市場が動いていますが、これを切り崩して新たな市場環境が生まれるきっかけになる可能性があります。さらに、再エネの利用に弾みがつくことは間違いなさそうです。

NTTアノードエナジーは「三菱商事の知見やノウハウとNTTグループの技術を融合させ、クリーンエネルギーと新しいエネルギーマネジメントサービスの提供を目指していきたい」としています。

この記事を書いた人

高田泰

政治ジャーナリスト

高田泰

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。

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