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新パナマ運河開通で電気・ガス代が安くなる?LNG輸送の仕組みとは?

新パナマ運河開通で電気・ガス代が安くなる?LNG輸送の仕組みとは?

そもそも、パナマ運河とは?

まず、パナマ運河についておさらいしてみましょう。

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パナマ運河ってどこにあるの?
アメリカ大陸の西には太平洋、東には大西洋が広がっているのはご存知のとおりです。
南北アメリカの間には、海賊で有名な「カリブ海」があります。キューバ等の島国が点在するイメージが強いかもしれませんが、南北のアメリカはニカラグア・コスタリカ・パナマといった中央アメリカの国々が属する「パナマ地峡」という細長い陸地でつながっているため、そのままでは船が通過することはできません

このため、パナマ運河の開通以前、大西洋から太平洋へ船を動かすには

  1. 1.南下して、南米大陸突端のマゼラン海峡を回りこむ南回りの航路
  2. 2.喜望峰もしくはスエズ運河を経由し、インド洋を通る航路

のどちらかで遠回りする必要がありました。

そこで、このパナマ地峡が最も細くなるあたりを掘削して、1914年に全長約80kmの運河が開通しました。
これにより、大西洋から太平洋へと船を移動しやすくなったのです。

パナマ運河の拡張、その目的は?

それでは、なぜ1914年に完成したはずのパナマ運河の拡張が注目されたのでしょうか?
それは、この拡張工事が「運河を通れる船の大きさ」に関わるからです。

パナマ運河は、パナマの大地を南北に貫いて、太平洋と大西洋をつないでいます。しかし、平らな川があるわけではなく、もともとの地形の関係で、海抜26mまで船を持ち上げる必要があります。
このため、閘門(ロック)と呼ばれる数段の設備に船を入れ、水位を変化させることで段階的に船を持ち上げます。最高地点を超えた後、反対側でも段階的に水位を下げることで、太平洋と大西洋の間の移動を実現しているのです。
最も重要なのが、閘門の大きさです。パナマのマックス、から取られたパナマックス(Panamax)サイズと呼ばれる大きさ以下でないと、閘門を通過することができません。
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パナマ運河の閘門に入った船
パナマックスサイズ
全長:294.1m
全幅:32.3m
喫水:12m

この大きさの制限、とくに幅の制限は造船の世界では非常に重要な水準となり、第二次大戦当時のアメリカ海軍の戦艦「アイオワ」もこの制限に収められています。
全長300mと聞くと非常に巨大なイメージがありますが、近年に建造される8万トン以上の大型船はこのサイズを超えた「ポストパナマックス」と呼ばれるサイズも多くなっていました。こうした大型船は、航海日数が長くなり、不安定な中東政情やソマリア海賊のリスクも伴うスエズ運河ルートなどを選ばざるを得ませんでした。
今回のパナマ運河の拡張により、閘門が大型化されたため、超大型船の9割近くまでもがパナマ運河を通行可能になったのです。

パナマ運河の拡張でどうして日本の電気・ガスが安くなるかもしれないの?

ここまでパナマ運河の仕組みと、拡張が必要になった理由をご説明しましたが、パナマ運河を大型船が通れることと、日本の電気・ガスの値段になんの関係があるのでしょうか?

LNG(液化天然ガス)輸入の現状

日本は石油・ガス等の燃料になる天然資源が乏しく、輸入に頼っています。この重要な燃料のひとつが、LNG(液化天然ガス)です。
特に東日本大震災以降の原子力発電所の停止で、LNGを燃やすLNG火力発電が日本のエネルギー源に占める割合は急速に大きくなり、東京電力と中部電力の天然ガス調達を担当する株式会社JERAは、世界で最大級のLNG調達企業となりました。また、火力発電に使うだけでなく、みなさんが自宅で使っている都市ガスの原料も、同じLNGです。

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ガスを世界のどこから買うか、が大きな問題
日本で使うLNGはおもにオーストラリア・マレーシアといった南太平洋と、カタール、UAEといった中東からの調達に頼ってきました。しかし、南太平洋ルートはマラッカ海峡の海賊や中国との関係、中東ルートは政情の不安定性などのリスクがあります。
また、これらの旧来からのLNG輸出国は、購入したLNGを他の事業者へ転売することを認めないなど、事業上の制約も大きい「売り手有利」の状態になっていました。

資源を持っていない日本は、決まった売り手に頼りすぎてしまうと「足元を見られた」状態になってしまいます。調達元を分散させるほど万が一の時の安定供給や価格競争が期待できる、ということもあり、日本は新たなLNG調達元を必要としていました。そこで、アメリカ・メキシコで生産される「シェールガス」に白羽の矢が立ちました。

2017年の「シェールガス」輸入開始と、パナマ運河の拡張

シェールガスは2000年代に入ってから採掘技術が実用化されたため、従来のLNG輸出国よりも柔軟な契約が可能です。日米の利害が一致し、2017年からの輸入が決まりました。
北米大陸南部の大西洋側が、アメリカ・メキシコのシェールガス産地です。このため、日本にシェールガスを運ぶLNGタンカーは大西洋側から出航することになります。

しかし、LNGタンカーは超大型船が多いため、従来のままではパナマ運河を通れず、大西洋→地中海→インド洋→南太平洋のスエズ運河ルートでも日本まで約40日以上の航海が必要になってしまいます。これは長くても14日程度の航海で済む南太平洋・中東からのLNGの調達に対して、大きくデメリットとなる点です。

それを解決できるのが、今回のパナマ運河拡張です。シェールガスを積んだLNGタンカーがパナマ運河を通過できれば、日本までの輸送期間が25日程度になるのです。

シェールガスを短い日数で運べることの意味

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高価で巨大なLNG船
日数がかかるということは、燃料がたくさん必要になります。パナマ運河を通るルートは、スエズ運河を経由するルートの57.6%、南米を回りこむマゼラン海峡ルートより81.4%もの燃料が節約できるとされています。
出典:パナマ大使館

パナマ運河を通れない場合、燃料費が一回の航海で1億円ほど余分にかかると見込まれていました。
また、大型のLNG船は1隻約200億円と高価で、作るのにも時間がかかります。輸送に時間がかかるようだと、貴重なLNG船をたくさん用意する必要があるため、建造費や船を借りる費用が余分にかかります。大きく遠回りをしなければならない場合、こうした部分でコストがかさんでしまうのですが、パナマ運河の拡張によって従来のLNG調達に対して不利な面がひとつ解消され、シェールガスの競争力が高まることになりました。
パナマ運河ルートは全域がアメリカの強い影響下にあり、他のルートよりも安全で船舶の保険料が安く済むなどのメリットもあることから、輸送費用の差はさらに小さくなると考えられます。
もちろん、パナマ運河の拡張はシェールガス輸送のためだけに行われたわけではありませんが、日本が総工費52億ドルのうち10億ドルを投資しているのには、こうした思惑もあるのです。

[ポイント]環境性に優れたLNG火力発電

このように日本での利用が広がっているLNG火力発電ですが、「火力発電」と聞くと、環境への影響が気になるところですよね。

じつは、LNG火力発電は優れた環境性でも注目されているんです。
最新の発電所では従来の火力発電所よりも高い温度(1600℃超)を出すことができるため、排熱まで発電に利用することができます。これにより高いエネルギー効率が実現され、CO2の排出量が少なく済むだけでなく、硫黄酸化物(SOx)の排出量がゼロ、窒素酸化物(NOx)の排出も少ないといったメリットがあります。
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出典:関西電力:火力発電の燃料

LNG火力発電の割合が高い電力会社
東京ガス
東京ガスの電気は、販売する電気の100%がLNG火力発電で賄われています。
出光興産(旧:出光昭和シェル)
出光興産(旧:出光昭和シェル)の販売する電気の98%はLNG火力発電に由来し、CO2排出係数も0.353kg/kWhと低い水準になっています。
大阪ガス
大阪ガスの電気も93%がLNG火力発電で、残りの7%は再生可能エネルギーで発電されたFIT電気です。

2017年のガス自由化を控えて

これまで見てきたように、パナマ運河を通しての北米シェールガスの日本への輸入が始まることで、シェールガスと他のLNG産地との価格競争が進み、原料の値段が下がることが期待されそれが電気代やガス代へと影響してくると考えられているのです。

折しもシェールガスの輸入が始まる2017年は、家庭向け都市ガス販売の自由化が控えており、東京電力などの大手電力がガスの販売も開始することで、都市ガス価格の競争も始まると考えられています。
パナマ運河の拡張は、家庭の重要なエネルギーである電気とガスの値段を考える上で、非常に重要なニュースだったんですね。

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この記事を書いた人

エネチェンジ編集部

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エネチェンジ内のメディア「でんきと暮らしの知恵袋」の記事を執筆しています。電気・ガスに関する記事のほか、節約術など生活に役立つ情報も配信しています。

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