外壁や窓で太陽光発電、環境にやさしいビル建設が全国に拡大【エネルギー自由化コラム】
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環境にやさしいネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)やネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の建築が広がりを見せる中、主役の1つとなる太陽電池パネルを外壁や窓に活用する動きが拡大しています。建材と一体化した太陽電池の外装システムの販売も始まっており、岡山市ではガラスの壁面に太陽電池パネルを採用したビルが登場しました。
岡山市のビルは太陽電池パネルを壁面ガラスに採用
JR岡山駅から宇野線で2駅、新興住宅街として発展を続ける備前西市駅周辺。駅の北側に太陽電池パネルを壁面ガラスに採用したビルがあります。電気工事大手・旭電業の第二本社ビルです。
ビルの東と南側が太陽電池パネルの壁面ガラスで覆われ、夏の日差しを浴びて黒く輝いて見えます。
採用した太陽電池パネルは大阪市淀川区に本店を置くテントなど膜状構造物メーカー・太陽工業が開発したシースルー型太陽電池パネルです。1枚当たりの大きさは900×998ミリ、厚さが22.5ミリ。薄膜の太陽電池パネルに切れ目を入れて可視光を10%透過させたのが特徴です。晴れた日なら室内の照明がほぼ不要となり、屋外の視界も十分に確保されています。
設置されたシースルー型太陽電池パネルは、幅約40メートル、高さ約16メートルの東側に646枚、幅約14メートル、高さ約16メートルの南側に221枚。最大出力は40.78キロワットに達します。屋上にも太陽光発電設備を設置しており、それを含めた合計出力は76.48キロワットです。
ビルが完成したのは2018年。旭電業はシースルー型太陽電池パネルで作った電気を自家消費するだけでなく、余剰分を電力会社に売電しています。日照時間が長くなる夏場は、売電する割合が高まります。
省エネとビル内の快適な環境を両立
室内に入る光はまぶしさがなく、こもれびのような柔らかさです。その一方で、太陽光に含まれる日射熱を90%以上カットし、遮熱効果で涼しさを保っています。紫外線のカットは99%。ビル内の資料や家具を紫外線による劣化から守ることができます。
構造が断熱複層ガラスで結露防止や断熱に効果があるほか、合わせガラスにしていることから、飛来物でガラスが割れても破片の落下を心配する必要がありません。
太陽工業はこれまで、シースルー型太陽電池パネルを公共施設中心に納入してきましたが、今後は民間ビルにも売り込んでいく考え。太陽工業は「旭電業はシースルー型太陽電池パネルを使ったビルとしては日本最大級。今後も省エネと快適な環境を両立させるビルづくりに貢献したい」と意気込んでいます。
業務部門の温室効果ガス削減でZEBに期待
7月に熊本県南部を襲った集中豪雨など異常気象が毎年のように発生しています。これに影響を与えていると考えられているのが地球温暖化です。政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減する長期目標を打ち出していますが、産業部門や運輸部門の排出量が順調に減少する一方、オフィスなど業務部門の排出量削減に苦戦しています。
その中で期待されているのが、ZEBの推進です。ZEBは快適な室内環境を実現しながら、ビルで消費する年間の1次エネルギー収支をゼロにすることを目指したものです。
太陽光発電はZEBで自前のエネルギーを確保する柱の1つと考えられていますが、これまでの屋上や敷地などに設備を設置するやり方だと、スペースが不足して希望通りの発電量を確保できないこともありました。窓や外壁が設置場所になると、より大きな発電量の確保ができるようになります。
大成建設とカネカ、2種の外装システムを開発
建設大手の大成建設と化学メーカーのカネカは太陽電池と窓や外壁などの建材を一体化した外装システムを開発しました。傍目に一般のビルの外装材と区別がつかないように工夫し、外観の意匠性を損なわないのが特徴です。
開発した外装システムは2種類あります。1つが太陽電池を外装パネル化したソリッドタイプです。太陽電池の電極線を見えないようにしているほか、耐久性は一般の外装材に見劣りすることがありません。
もう1つが主に窓への導入が想定されるシースルータイプです。両面で発電することができる薄型の太陽電池を窓ガラス素材で挟み込み、発電効率と高い透過性の両方を追求しています。
どちらのタイプも太陽電池と外装材を一体化させることで簡単に施工できるばかりか、30年以上の発電を可能にしました。災害による停電時に独立した非常用電源として使用することができ、蓄電池と組み合わせれば、使用範囲の自由な設定が可能です。
大成建設とカネカが開発した外装システムのイメージ(大成建設提供)
限られたスペースの有効活用が可能に
外壁や窓を発電場所に利用することで限られた設置スペースしかないビルでも、これまで以上の発電量が確保できます。狭い土地に立地する都会のビルであっても、太陽光発電をフル活用できるのです。
しかし、発電効率の向上と意匠性の両立が課題に浮上してきたため、大成建設が持つ建材一体型太陽電池の設計施工ノウハウと世界最高効率の発電モジュール製造技術に、瓦一体型太陽電池の導入実績を持つカネカの技術を加え、新しい外装システムを誕生させました。
大成建設は集合住宅など民間のビルにも2つのタイプを組み合わせて活用したい考えで、「環境経営に積極的な企業や災害時の活動拠点となる公共施設、大規模集合住宅などに対し、積極的に提案していきたい」としています。
NTTATが秋から高機能建材ガラス販売へ
NTTアドバンステクノロジ(AT)は、透明な意匠性を保ったまま赤外線を吸収して発電する高機能建材ガラスを2020年秋から販売します。発電素子メーカーのインクスが無色透明型光発電素子技術を活用して開発したもので、インクスと国内独占販売契約を結びました。
可視光が通過するため、一般のガラスを使用するすべての用途で活用が可能です。遮熱ガラスとしてビルの省エネに有効なほか、デザイン性が高い発電ガラス材料としても用途開拓が期待されています。
NTTアドバンステクノロジはZEBを中心に売り込みたい考え。「当面は高性能な遮光ガラスとして販売するが、将来は発電機能を生かした製品としたい」と語りました。
ZEBは経済界で環境意識が高まる中、徐々に広がりを見せつつあります。外壁や窓での発電がさらに普及すれば、ビルの電気は自前でまかなう時代がやってきそうです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。