太陽光パネル生産の草分けが小売電気事業者へ、京セラの巻き返しが始まる【エネルギー自由化コラム】
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京セラと関西電力が家庭用の太陽光発電設備を戸建て住宅に無償貸与し、太陽光発電を導入しやすくするサービスを今秋から始めます。「屋根貸し」などと呼ばれる事業で、両社が出資する運営会社が京都市伏見区に設立され、小売電気事業者の登録を経済産業省に申請しています。京セラといえば、太陽光パネル生産の草分け。それがなぜ今、新サービスを打ち出して電力販売に乗り出すのでしょうか。
10年後に初期費用なしで設備を無償譲渡
新サービスは、京セラの太陽光発電設備が契約世帯の屋根に設置され、契約期間の10年が終わると無償で譲渡される仕組み。通常、5キロワット程度の太陽光発電設備で170~200万円の初期費用が必要になります。しかし、契約世帯は10年後に一切の初期費用負担がないまま、太陽光発電設備を所有でき、売電や自家消費が可能になるわけです。
契約期間中は太陽光パネルで発電した電力を購入して消費します。電気料金について、京セラの谷本秀夫社長は大阪市で開いた記者会見で「価格面でも(契約世帯に)魅力のあるサービスを提供したい」と述べました。夜間や雨天などで電力が不足すれば、関西電力が電力を供給します。災害などで停電した場合は、太陽光発電設備の自立運転で電力を使用できます。
契約の主な対象は当面、関東と中部地方の新築戸建て住宅で、2024年度までに4万件の契約獲得を目標に掲げています。将来は関西など他地域での展開も視野に入れているもようです。
夏にも料金を発表し、受け付け開始
資本金は1,000万円。京セラが51%、関西電力が49%を出資しています。
職務執行者には京セラの小谷野俊秀ソーラーエネルギー事業本部副本部長と、関西電力の大川博巳執行役員・営業本部副本部長が就きました。
役割分担は京セラが機器販売、設置工事、メンテナンスを担当し、関西電力が電力の安定供給に注力します。運営会社は小売電気事業者の登録を終えたあと、夏にも料金などサービスの詳細を発表して受け付けを始めることにしています。
契約世帯が消費しなかった余剰電力は、国の固定価格買い取り制度の下で売電します。その収益で太陽光発電設備の設置やメンテナンスの費用を回収するのが、このサービスのビジネスモデルです。
屋根貸し事業は東電や中電も展開
「屋根貸し」、「第三者所有モデル」などと呼ばれるこの種の事業は、東京電力エナジーパートナーとリクシル、NTTスマイルエナジーと太陽光パネル製造のデンカシンキなどが住宅を対象に実施しているほか、中部電力が2月から企業向けに展開を始めました。
事業の目的は再生可能エネルギーや年間の1次エネルギー消費をゼロにするZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及としており、京セラは「再生可能エネルギーの普及に貢献したい」、関西電力は「低炭素社会の実現に尽力したい」と説明しました。
ただ、関西電力が京セラと組むのは、電力自由化の激しい競争下で、販売先の確保が頭にあるからでしょう。太陽光パネル生産の草分けといえる京セラがあえて小売電気事業者になる背景には、太陽光パネルをめぐる国際競争も深く関係しているようです。
海外メーカーが日本市場で攻勢に
京セラは1975年に太陽光発電の研究開発をスタートさせ、1993年に日本で初めて住宅用太陽光発電設備の販売を開始した老舗企業です。20世紀末にはシャープ、三洋電機(当時)、三菱電機とともに、世界の最先端を進んでいた日本の太陽光発電業界を引っ張ってきました。
しかし、21世紀に入ると、巨大な生産能力を持ち、低コストの中国など海外メーカーに王座を明け渡します。2011年の東日本大震災のあとはFIT需要を見越して中国や台湾、韓国などの海外メーカーが相次いで日本市場に参入しました。その結果、千、万単位でパネルが必要になるメガソーラーは、コスト力で勝る海外メーカーの独壇場と化したのです。
それでも、住宅市場は国内メーカーが工務店を通じた販売網を確立していたため、優位が動きませんでした。しかし、次第に海外メーカーの浸食を受け、国内メーカーが相次いで生産縮小に追い込まれていきます。太陽光発電協会によると、太陽光発電全体の国内企業シェアは2014年10~12月期に68%でしたが、2018年10~12月期は52%まで低下しました。
出典:太陽光発電協会「太陽電池の出荷統計」から筆者作成(注)各年とも第3四半期(10~12月)の数字
京セラの販売実績は大幅に低下
京セラの販売実績も2015年度に120万キロワットを記録していましたが、2019年3月期は50万キロワット前後まで落ち込む見通しです。逆に、韓国のハンファQセルズやカナダのカナディアン・ソーラーは100万キロワット以上を供給するまでに成長しました。
京セラは工場の集約など太陽光事業の構造改革に取り組んできましたが、海外メーカーとの競争に加え、太陽光パネルの材料となるポリシリコン調達で固定価格の長期契約を結んだあとにポリシリコン価格が大幅に下落、深刻な打撃を受けました。
このため、2018年3月期から2カ年で合計1,000億円の評価損など引当損失を計上しました。太陽光事業を含む京セラの生活・環境セグメントも、2018年3月期に550億円の営業赤字を計上しています。そのうえ、FIT価格の低下が住宅用太陽光発電設備の需要を冷え込ませるかもしれません。京セラの太陽光事業を取り巻く環境は厳しいままなのです。
品質を武器に新サービスで反撃へ
しかし、太陽光事業は創業者である稲森和夫名誉会長の肝いりです。しかも、谷本社長は2021年3月期に連結売上高2兆円を目指す目標を掲げました。この目標を達成するために、太陽光事業へのテコ入れが欠かせないのです。
ここに来て、明るい材料も見えてきました。ポリシリコン調達契約の見直しにより、今後は割安の材料調達がしやすくなったことです。さらに、関西電力の岩根茂樹社長が記者会見で「京セラのシステムは高品質で長期的な信頼がある」と述べたように、品質面では依然、定評があります。
メガソーラーはどうしてもコストが優先されますが、戸建て住宅への設置なら品質で勝負する余地が残されています。さらに電力小売りを長く続けてきた関西電力の存在も小さくないでしょう。関西の2大企業が手を組んだ今回の新サービス。京セラの巻き返しがなるかどうかに業界の注目が集まっています。