東京が再エネ都市に、地方と連携した電力調達続々と【エネルギー自由化コラム】
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地方で発電された再生可能エネルギー由来の電力を調達する東京特別区が増えてきました。世田谷区が2017年から長野県、群馬県川場村の電力を導入しているのに続き、2018年4月から目黒区が宮城県気仙沼市、港区が福島県白河市の電力を購入しています。東日本大震災被災地の復興、都市と地方の交流など理由はさまざまですが、新しい形の電力調達の動きが都内で広がろうとしています。
目黒区は宮城県気仙沼市から電力を調達
目黒区が調達する電力は、気仙沼市の気仙沼地域エネルギー開発が建設した木質バイオマス発電所「リアスの森バイオマスパワープラント(BPP)」で発電しました。調達は福岡県みやま市が出資する自治体電力のみやまスマートエネルギーを通じて進めています。
電力の供給先は目黒のさんま祭り会場の田道ふれあい館や、駒場小学校、東山中学校のほか、保育所など区有の計33施設。電気代は年間で50万円程度の削減につながる見込みです。
再生可能エネルギーの普及を後押しするのが最大の目的ですが、友好都市協定を結んでいる気仙沼市を支援する狙いも持っています。目黒のさんま祭りでは気仙沼市が協力し、東日本大震災で気仙沼市が被災すると、目黒区が職員を派遣して支援してきた間柄なのです。
友好都市の復興支援も導入の目的
気仙沼市は東日本大震災で市民に関連死も含めた死者、行方不明者合わせて1,356人の被害を出し、街ががれきの山と化しました。復興は徐々に進み、街も次第に整備されてきましたが、産業面では今も苦境が続いています。
その打開に向けて設立されたのが気仙沼地域エネルギー開発です。気仙沼市の面積の約7割を占める山林に目をつけ、地域内で集められる間伐材を利用して発電をスタートさせました。リアスの森BPPは発電能力800キロワット時。一般家庭約1,500世帯以上の消費電力を生み出す能力があります。
目黒区環境保全課は「区内では実現できないバイオマス発電由来の電力を購入することにより、再生可能エネルギーの普及を図りつつ、友好都市気仙沼市の復興を支援したい」と力を込めました。
港区は福島県白河市の電力を保育園に
港区は、みやまスマートエネルギーを通じ、福島県白河市の太陽光発電施設で発電された電力の調達を始めました。地球温暖化防止に向け、再生可能エネルギーの導入しようとしていたところ、白河市とみやまスマートエネルギーが協力して実現した事業です。
3月には港区役所で武井雅昭港区長、鈴木和夫白河市長、冨重巧斉みやま市環境経済部長(当時)が集まり、3市の間で「再生可能エネルギーの活用に関する協定」を締結しました。
港区が購入する電力は年間約40万キロワット時。白河市で運転中の太陽光発電5社や市役所本庁舎など市有施設で発電したもので、港区は保育園、公共施設など区有8施設で利用しています。
山形県庄内町からの電力調達も計画
港区は山形県庄内町の風力発電で作った電力もみやまスマートエネルギーを通じて調達する計画。3月末に武井区長と原田眞樹庄内町長、高野道生みやま市副市長が港区役所に集まり、協定書に調印しました。
庄内町は4月から10月にかけ、東南東の強風「清川だし」が吹きます。この風は岡山県の「広戸風」、愛媛県の「やまじ風」とともに日本三大悪風に数えられていますが、これを利用した風力発電に力を入れているのです。港区は2019年度からこの電力も供給を受けようと考えました。
港区環境課は「電気の購入量が増加するのに合わせ、使用施設を増やしていく。全国の自治体と連携して再生可能エネルギーの活用を進めていきたい」と意気込んでいます。
世田谷区は長野県伊那市の電力を受電
世田谷区は以前から再生可能エネルギーの普及に力を入れてきました。再生エネルギー利用率25%の目標を掲げており、長野県からの受電を都市と地方のエネルギーネットワークづくりに向けた取り組みと位置づけています。
世田谷区環境計画課は「保育園を通じ、区民に再生可能エネルギーを認識してもらい、関心を持ってもらえるようになった。長野県との交流も少しずつ生まれてきた」と喜んでいます。これに対し、長野県企業局は県全体が人口減少に苦しんでいるだけに「ただ単に電力を売るのではなく、都市との交流で交流人口を拡大したい」と語りました。
群馬県川場村の電力を区民が購入
このほか、世田谷区は群馬県川場村と2016年に発電事業に関する連携・協力協定を結び、2017年から川場村産の電力を区民が購入できる仕組みをスタートさせました。みんな電力が間に立っています。
この電力は川場村のウッドビレジ川場が持つ木質バイオマス発電所の「森林(もり)の発電所」(最大出力45キロワット時)で発電しました。区民約40世帯がバイオマス由来の電力を使っています。
都環境公社は供給先拡大を検討
特別区以外では、都環境公社が2016年からバイオマス発電由来の電力を気仙沼地域エネルギー開発、太陽光発電由来の電力を東京都調布市の調布まちなか発電から調達し、江東区にある都環境科学研究所と水素情報館に供給してきました。
都内で使用する電力に占める再生可能エネルギーの割合は2014年度で8.7%でしたが、都は2030年までに30%に引き上げる方針を打ち出しています。この方針に沿い、都環境公社が他の自治体に模範を示した形です。
都のクール・ネット東京創エネ支援チームは「1月から供給先の拡大に向け、内部で検討を重ねている。早ければ秋、遅くとも年明けには供給先を決めたい」と意欲を見せています。
再エネ普及に欠かせない自治体の旗振り
しかし、2016年に発効した地球温暖化防止パリ協定では、今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出を実質ゼロとする長期的な取り組みを各国に求めています。政府や電力大手は経済効率の面から再生可能エネルギーに消極的な一面も見受けられますが、再生可能エネルギーの重要性は高まる一方なのです。
再生可能エネルギーをよりいっそう普及させるためには、自治体が旗振り役を務め、国民に啓発を続けることが欠かせません。東京特別区のような大都市圏では、自前で発電するにも限界があります。こうした地方との連携で再生可能エネルギーの導入を進める動きが今後、進みそうです。