注目高まる「カーボン・ニュートラル」、国内初の都市ガスが来春供給へ【エネルギー自由化コラム】
東京ガスは二酸化炭素の排出量をゼロとみなすことができる「カーボン・ニュートラル」の都市ガスを、国内で初めて2020年3月から東京都千代田区のオフィスビル2棟に供給を始めます。これに続く第2、第3の供給先確保にも動いており、カーボン・ニュートラルの都市ガスが今後、国内で広がっていきそうです。一般にはまだなじみが薄いカーボン・ニュートラルとは、どういうものなのでしょうか。
千代田区のオフィスビル2棟が使用
丸の内熱供給は東京ガスと10月、カーボン・ニュートラルの都市ガス供給を受ける基本合意書を締結しました。契約期間は2020年3月から5年間です。
丸の内熱供給は東京都千代田区丸の内の丸の内ビルディングに年間40万立方メートル、千代田区大手町の大手町パークビルに年間30万立方メートルを供給することにしています。この2つはともに三菱地所が所有するオフィスビルです。
丸の内ビルディングは固体酸化物形燃料電池とマイクロガスタービンを組み合わせた最先端の高効率発電システムを2019年3月から採用しています。これに使用する都市ガスを全量、カーボン・ニュートラルの都市ガスに切り替えるのです。
大手町パークビルでは、地域冷暖房プラントとして2017年2月からガスエンジンコージェネレーションシステムを導入し、大手町エリアのオフィスビルに電力や熱エネルギーを供給しています。今回、使用する都市ガスをすべてカーボン・ニュートラルに改めます。
シェルグループが排出権で二酸化炭素を相殺
東京ガスが供給するカーボン・ニュートラルの都市ガスは、石油メジャー・英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルのグループ企業で、シンガポールに本社を置くシェル・イースタン・トレーディングと6月、LNG(液化天然ガス)購入の契約を結んだものです。カーボン・ニュートラルのLNG受け入れは日本で初めてになります。
天然ガスは化石燃料の中で二酸化炭素の排出量が少ないものの、排出量ゼロではありません。シェルグループは森林保護活動などの取り組みを排出権として購入し、その排出権で天然ガスの採掘から燃焼までに発生する二酸化炭素を相殺、排出量を実質ゼロにしました。二酸化炭素を相殺できたことは、国際的に信頼性が高い検証機関が認証しています。
丸の内熱供給は「カーボン・ニュートラルの都市ガスを導入することで低炭素化を進め、エリアのエネルギーインフラを担う企業として街の価値向上に努めていきたい」としています。
東京ガスは今後もカーボン・ニュートラルの都市ガス販売を進める方針で、「取り組みに賛同してくれる企業があれば、供給を進めて環境に優しい地域づくりに貢献したい」と意欲的に語りました。
言葉の意味は二酸化炭素排出量と吸収量が同じ
カーボン・ニュートラルの「カーボン」は炭素、「ニュートラル」は中立を意味し、全体で環境中の二酸化炭素排出量と吸収量が同じであることを示します。もともとは生化学や環境生物学で使われていた用語で、地球温暖化が国際的な問題に浮上して以来、注目されるようになりました。
カーボン・ニュートラルは都市ガスだけでなく、エネルギー分野全体で用いられます。これを実現するためには、二酸化炭素の排出分を植林などで直接吸収するほか、排出権や二酸化炭素の吸収・削減量の証明書を購入して排出分を相殺する方法があります。排出分を相殺する方法はカーボン・オフセットと呼ばれています。
植物は光合成により、大気中の二酸化炭素を吸収して成長します。カーボン・ニュートラルは植物由来の原料や燃料を燃やしても、大気中の二酸化炭素量が理論上変わらないとする考えに基づいています。サトウキビやトウモロコシから作るバイオエタノール、木質ペレットなどを使うバイオマス発電が環境に優しいとされるのはこのためです。
石油や石炭など化石燃料も太古の生物に由来すると考えられていますが、環境に優しい燃料とはされていません。これは化石燃料を燃やすことで太古の時代に封じ込められた二酸化炭素が現代の大気中に放出されるとみなされるからです。
ノルウェーは国全体で目標を設定
国全体でのカーボン・ニュートラルを政策目標に掲げるところが出てきました。その1つが環境先進国として知られる北欧のノルウェーです。2030年までに国内全体でカーボン・ニュートラルを実現する目標を2016年に打ち出しました。
ノルウェーは2050年までにカーボン・ニュートラルを実現する目標を立てていましたが、2015年に採択された地球温暖化防止のパリ合意を受け、これを前倒しした格好です。
ノルウェーは国内の電力供給の95%を水力発電でまかなっています。人口も500万人ほどと少なく、日本とはかなり事情が異なっていますが、北極圏に近く、地球温暖化の進行に強い危機感を持っていることも背景にあるようです。
取り組みを始める企業が世界的に拡大
パリ合意を受け、カーボン・ニュートラルに取り組む企業は世界的に増えています。世界持続的投資連合によると、環境や社会問題に対する企業の取り組みを投資判断に反映させるESG投資は2018年、約31兆ドルに達し、2016年を34%上回りました。環境問題に前向きに取り組む企業を評価する意識が投資家の間で広がっているからです。
特に、二酸化炭素の排出削減は環境対策の成果が数値で見えることから、世界の企業が積極的にPRするようになってきました。国内でも東京急行電鉄、花王、第一生命ホールディングスなどさまざまな大企業が独自の二酸化炭素削減策を打ち出しています。
環境に優しい企業を目指し、再生可能エネルギーの導入を推進することが、企業価値を高める時代になったといえるでしょう。カーボン・ニュートラルに対する注目は今後も経済界で高まっていきそうです。
どう乗り越える、批判的な見解
ただ、カーボン・ニュートラルの考え方に批判的な見方もあります。例えば、植物由来の原料や燃料の製造、運搬には大量の化石燃料が使用されています。その点を考慮すると、カーボン・ニュートラルとはとてもいえないというわけです。
バイオエタノールの生産では、食料に充てられるはずのトウモロコシなどが大量に利用されました。その結果、穀物価格の高騰や森林伐採を招く要因となったと批判する声も出ています。
カーボン・ニュートラルのエネルギー利用を拡大するためには、これらの批判的な意見と向き合い、乗り越えていかなければならないでしょう。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。