迫る卒FITへの対応やベースロード取引開始など、電力業界動向まとめ【2019年8月版】
この記事の目次
2019年11月に固定価格での買取期間満了が迫る住宅用太陽光発電(卒FIT)への取り組みやベースロード市場の入札など、2019年7月から8月の電力業界の動向を関係省庁の資料から何点か振り返ってみましょう。
それぞれの資料の注目すべきポイント、決定や変更した点とどのような影響があるのかなどについて、エネチェンジを運営するENECHANGE株式会社の顧問である関西電力出身、元大阪府副知事の木村愼作氏に解説してもらいました。
卒FIT後の選択肢拡大へ 新電力から対象者へのPRの取り組み決まる
2019年末で契約満了を迎える卒FITの対象は約53万件にのぼります。11月から始まる卒FITに備えて新電力が対象者に買電をPRするための取り組みをすすめていくことが決まりました。
電力・ガス取引等監視委員会から、7月31日に「FIT卒業電源への新電力のアクセスについて」の資料が公開されています。
「FIT卒業電源への新電力のアクセスについて」で注目したいポイントは?
これまで買取を行ってきた旧一般電気事業者(以下、旧一電)のみが卒FIT対象者の個人情報保有しているため、一部の新電力からは対象者への買電のPRが難しいという声が上がっていました。今回の取り組みについても、JXTGエネルギー、Looop、出光興産、大阪ガスの4社から共同の資料が公開されています。
新電力の要望は、旧一電が卒FIT対象者に送付する個別通知に新電力の買取情報を同封するスキーム。一定のルールを定めて、運営する連絡会を設置してすすめられることになりました。
この取り組みによって卒FITを迎えるお客様の選択の機会が増えることになるでしょう。
初のベースロード取引、入札結果は
火力、地熱、一般水力、原子力、石炭などによる比較的発電コストが安く安定供給できる電力を取引するベースロード電源取引市場の初の入札が行われました。
日本卸電力取引所(JEPX)が「2020 年度分 ベースロード取引市場 取引結果通知」を公開しています。
「2020 年度分 ベースロード取引市場 取引結果通知」で注目したいポイントは?
約定量は極めて小規模で約18万kWでした。エリア別の内訳を見ると、北海道が1万2,700kWで約定価格は12.47円/kWh、東京は8万8,200kWで9.77円/kWh、関西では8万3,400kWで8.70円/kWhです。
新電力ではこの約定価格について割高だと見ている人が多いでしょう。新電力は様子見状態で、新市場は期待通りの規模になっているとは思えない状況です。
年度内にあと2回入札が行われますので今後の動きにも注目をしていきましょう。
電力の卸供給の交渉窓口を公表するよう旧一電に要請 電力・ガス取引監視等委員会
電力・ガス取引監視等委員会は卸供給の考え方について、制度設計専門会合にて整理を行った内容を踏まえて、交渉体制について旧一電に要請しました。
要請内容がまとまっているのが8月7日に公開されている「電力の卸供給の在り方について(主に卸供給の交渉体制について)」の資料です。
「電力の卸供給の在り方について(主に卸供給の交渉体制について)」で注目したいポイントは?
旧一電の発電部門と小売部門の内部補助を防止する動きで、内容は卸取引に関する諾否の判断と交渉窓口について。
新電力との卸供給交渉については、新電力と競合する旧一電の「小売部門が行うことは特段の事情がない限り適切ではない」として、発電部門と直接交渉できるように窓口をホームページなどで公表するのが望ましいという要請をしています。
太陽光・風力はFIP化へ? 2021年春までの抜本的制度変更に向けて
「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の中間整理(第3次)(案)」が公開されました。
2017年12月に設置されたこの小委員会では、2018年5月に中間整理(第1次)、2019年1月に中間整理(第2次)を公開しました。
今回の第3次中間整理(案)では、4月以降に検討がすすめられてきたFIT制度の適切な運用や制度そのもののあり方などを整理してまとめています。
「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の中間整理(第3次)(案)」で注目したいポイントは?
競争電源と地域電源に分類し、それぞれの方向性を示しています。
6ページは「電源① 競争力ある電源への成長が見込まれる電源(競争電源)」について。
大規模事業用太陽光発電や風力発電といった競争力がある新規の電源は入札制にしていく方針で、「事業用太陽光発電については小規模案件に十分留意しつつ、原則としてすべてを入札対象としていくことが必要である。」とされています。
7ページは「電源② 地域において活用され得る電源(地域電源)」について。
こちらは当面は現行のFIT制度の基本的な枠組みを維持しつつ、電力市場への統合について電源の特性に応じた検討を進めていくことが適切とされています。
また、その後の8〜9ページでは今後の詳細検討に当たって留意すべき委員・有識者からの主な指摘が記載されていますが、太陽光発電や風力発電を中心に、現在のFIT制度からFIP制度などに移行すべきとの意見が多く取り上げられています。
FIPとはFeed-in Premiumの略。FITの固定価格と違い、市場価格と連動した上でプレミアム分を上乗せする制度です。
今回の中間整理でひとまず方向が決まり、今後、2021年春までに行われる制度の抜本改革に向けて詳細な制度設計が進められます。
電力業界の動向、9月は最新の「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」を解説予定
2019年7月から8月の電力業界の動向をまとめて木村氏に聞きました。さらに詳しく知りたい方は記事で紹介した資料の本文もぜひ確認してみてください。
次回は、8月29日に予定されている第20回目の電力・ガス基本政策小委員会で出される最新の「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」の注目点などを解説してもらう予定です。
この記事を書いた人