ハイブリッド蓄電池システムで電力供給安定、中国電力の隠岐諸島実証実験【エネルギー自由化コラム】
中国電力が日本海に浮かぶ島根県の隠岐諸島で2015年から実施してきたハイブリッド蓄電池システムの実証実験が終わりました。リチウムイオン電池とナトリウム・硫黄(NAS)電池を組み合わせ、太陽光など再生可能エネルギーで作った電力の短周期変動、長周期変動の双方に対応する国内初の実証実験で、中国電力は再エネ電力の安定供給に成果を上げたとする事業報告書を環境省に提出しています。
西ノ島町にハイブリッド蓄電池システム設置
設備は出力2,000キロワット、容量700キロワット時のリチウムイオン電池と、出力4,200キロワット、容量2万5,200キロワット時のNAS電池、エネルギー・マネジメント・システムなどです。
このうち、容量が大きいNAS電池は一般家庭が1日に使用する電力(10キロワット時)に換算して約2,500世帯分を貯めることができます。隠岐諸島の世帯数は約1万。全世帯が1日に使用する電力量のざっと4分の1を供給できるわけです。
中国電力は2014年度、環境省から蓄電池実証補助事業の採択を受けてシステムの設置工事に着手し、2015年9月から2019年3月末まで実証実験を進めました。設備工事費は総額で約25億円に上ります。
日中の余剰電力を充電して夜間に放出
ハイブリッド蓄電池システムと連系した太陽光、風力など再エネ発電施設は、2019年3月末時点で約8,000キロワット分が隠岐諸島で導入されていますが、これによる電力の出力変動をリチウムイオン電池とNAS電池で協調制御するのが目的です。
同時に、ディーゼルエンジンによる火力発電の稼働を抑えて二酸化炭素の排出量を抑制する狙いもあります。環境省の実証事業に選ばれたのは、成功すれば離島での再エネ普及に弾みがつくと考えられたからです。
太陽光と風力の発電出力データをリアルタイムで収集し、エネルギー管理システムが小さな出力変動を小刻みに充放電して相殺させるとともに、島全体の電力需要と再エネ発電量を予測して日中に発電した太陽光の電力を充電し、夜間に放電するよう指令を出す仕組みです。
離島での再エネ普及、出力変動対策が課題に
電力を安定して供給するには、使用量と発電量を常に一致させなければなりません。このため、電力会社はそのときどきの使用量に応じて発電所の出力を細かく調整しています。しかし、調整がうまくいかないと、発電機が壊れるなどの影響が出るほか、最悪の場合は2018年の北海道胆振東部地震のようにブラックアウトが起きてしまうのです。
ところが、太陽光は雲の通過、風力は風向きの変化で出力が変動するなど、再エネ発電は天候の影響を大きく受けます。再エネが増えた九州電力はたびたび、出力制御を実施して調整に努めていますが、送電線が本土と連系していない離島部では、電力ネットワークの規模が本土よりずっと小さいため、出力変動で受ける影響がより大きくなります。
隠岐諸島はこれまで、島後の隠岐の島町と島前の西ノ島町にあるディーゼルエンジンの火力発電所で電力を供給してきましたから、問題が起きませんでした。しかし、今後再エネを増やしていくうえで出力変動対策が大きな課題になっていたのです。
余剰電力吸収に電池活用の実証は国内初
太陽光など再エネ発電を電力系統に連系した場合、問題となる出力変動には大きく分けて2つあります。雲の通過などが引き起こす短周期変動による電力周波数の変化と、太陽の位置変化など長周期変動で起きる余剰電力の発生です。
ハイブリッド蓄電池システムでは、この短周期変動をリチウムイオン電池、長周期変動をNAS電池で制御するように設計されています。リチウムイオン電池、NAS電池とも、両方の変動に対応できますが、導入コストを最小化するため、中国電力はハイブリッド化を選択しました。
過去にも沖縄電力が沖縄県の宮古島、九州電力が長崎県の壱岐島に4メガワット級の電池を導入し、短周期変動による周波数の乱れを安定化させる実証実験をしています。しかし、短周期変動だけでなく、長周期変動による余剰電力の吸収に電池を活用する実証実験は今回が初めてで、画期的とされました。
通常は太陽光の発電量が増える日中に火力発電の出力を落としてバランス調整しますが、ディーゼル発電機の限界を超えて太陽光の発電量が増えると供給が需要を超え、系統全体がダウンしかねないからです。
実証実験は電力安定供給に十分な成果
中国電力が環境省へ提出した事業報告書によると、3年半の実証実験では短周期、長周期それぞれの変動に対し、リチウムイオン電池とNAS電池の協調制御が良好に進み、系統周波数を管理目標値に収めていることが確認されました。
この実証実験に合わせ、島後の旧隠岐空港滑走路跡地に出力1.5メガワットの大規模太陽光発電所が2つ整備されるなど再エネ発電施設が増えましたが、電力供給の安定化に十分な成果を上げたわけです。
再エネの導入を拡大した結果、ディーゼル発電機で使用する燃料を減らすことができ、二酸化炭素の排出量を大きく削減できました。2018年度の年間二酸化炭素排出削減量は約6,100トンに及びます。
ハイブリッド蓄電池システムによる初の実証実験だけに、全国の注目を集め、2015年9月の実証スタートから2019年3月末までに延べ700人以上の視察がありました。実証実験が地方創生に一定の効果をもたらしたともいえます。
今後の課題は設置コストの引き下げ
中国電力は引き続き、ハイブリッド蓄電池システムを隠岐諸島で運用していきます。今後の焦点はこのシステムを他の離島部にも広げることですが、それには乗り越えなければならない課題が残っています。導入コストの高さです。
中国電力は「環境省の補助金があったから、導入することができた。補助金なしで普及させるには、コスト削減に向けてさらなる努力が必要だ」としており、これからもこの課題解決に向けて努力する方針です。
ハイブリッド蓄電池システムが設置された西ノ島町企画財政課の担当者は「あくまで個人的な見解だが、日本初のこのプロジェクトが他の離島部でも展開され、再エネの普及がさらに進んでほしい。そうすれば日本が未来の地球にやさしい環境先進国になれるのでないか」と期待を口にしました。
こうした声に応え、再エネの普及を推進するため、国を挙げてコスト削減の方策を探る必要がありそうです。
この記事を書いた人
政治ジャーナリスト
高田泰
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。