東京ガスが電力自由化での家庭向け電力小売り参入を発表。その意味は?
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東京ガスは2016年4月にも実施される電力小売り全面自由化に合わせて、家庭向けの電力販売に参入する方針を発表しました。
ガス会社が電力の小売りに参入する、とはいったいどういうことでしょうか。考えてみましょう。
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東京ガスが家庭向けの電力販売に参入するのはどういう意味がありますか?
ガス会社が電力に参入、というと違和感がありますよね。それは現在、電気を家庭向けに販売できるのは地域の電力会社に限定されているからです。しかし、2016年に予定されている電力小売り全面自由化のあとは、この限定が外されるのです。
首都圏の電力市場の1割確保をめざす
10月16日、東京ガスは電力の小売り全面自由化の際に、家庭・商店向けの電力の販売に参入することを発表しました。2020年には発電能力をいまの2倍以上に引き上げると同時に、販売する電力量も3倍に増やして、首都圏の市場の約1割の獲得をめざすということです。
2016年からの電力小売りの全面自由化では、家庭や商店向けの「低圧」と呼ばれる部分についても販売が自由化されるため、市場の規模が拡大します。このため、これまで地域電力会社が担っていた家庭向けの電力販売にも異業種が参入することができるようになり、東京ガスが家庭向けの小売り販売に参入すると正式に発表したものです。
東京ガスは以前から電力小売りに参入することを検討しており、実は先日の発表は予想されていたものでしたが、日本の都市ガス最大手の東京ガスが正式に発表したことで、2016年4月とされる電力小売りの全面自由化に向けて異業種の参入が今後活発化するものと見られます。
東京ガスの戦略
東京ガスの発表は、同社が2020年までの経営戦略を見通す中で、2015-2017年に実施する主要な取り組みとして発表された。それによると、発電能力は現状の約130万kWから20年に約300万kWに引き上げるとしたほか、電力販売量を現状の約100億kWhから20年に約300億kWhへ引き上げる方針だ。
ガス会社が電力販売に乗り出す理由
東京ガスが家庭向けの電力販売に乗り出す大きな理由の一つは、電力小売り完全自由化後に、電力販売を収益の柱としようとしているからです。東京ガスはすでに神奈川県の横浜市や横須賀市、川崎市のほか、千葉県袖ヶ浦市に自前の発電所をもっており、東京電力に対して電力を卸売りしているほか、NTTファシリーティーズや大阪ガスとともに出資して作った新電力(PPS)の「エネット」を運営しており、これまでも大口顧客向けに電力を販売してきました。電力小売りの完全自由化によって、電力販売を家庭向けにも広げることができるため、新たな自由化分野にも参入して業容を拡大する狙いがあります。
新電力(PPS)の「エネット」とは?
エネットは2000年に設立された新電力最大手で、東京ガスが30%、大阪ガスが30%、NTTファシリーティーズが40%をそれぞれ出資している。自前の発電所を持つほか、全国100以上の発電所から電気の供給を受け、全国約1万4000の施設に電力を供給している。
都市ガス事業も自由化される予定
また、都市ガス販売がいずれ自由化されることも理由の一つです。様々な会社から買えるプロパンガスと違い、現在は地域独占となっている都市ガス(ガス管を通じて各家庭に供給されるガス)の販売は、政府の方針で電力同様に自由化される流れにあります。経済産業省は電力小売り全面自由化の作業に加えて、都市ガスの小売りも2017年をめどに家庭用を含めて自由化することを目指しています。そうなると、ガスの市場も競争が激化することが予想されるため、ガス会社も収益源を多様化するために2016年の電力自由化のタイミングにあわせて電力事業を強化しておくという狙いがあるのです。
消費者にとってのメリットは?
それでは、東京ガスの参入で消費者はどのようなメリットを受けられるでしょうか?
電力自由化の先進国である英国の例では、ガスの販売も自由化されており、電気とガスを一緒に顧客に売る「併売(デュアルフュエル契約)」は一般的になっています。
ガスと電気を同じ事業者が販売することで、基本料金が削減されるなどお得なセット料金を打ち出すことができるため、これを武器としてホームページなどでも消費者に「お得感」をアピールしています。このセット料金には電力小売事業で新規顧客を開拓するだけでなく、他のガス会社へ乗り換えられないよう、ガス事業として既存客のつなぎとめを図っている側面もあります。
英国の自由化事例については、エネチェンジ ケンブリッジレポートシリーズもご参考ください。
ガスの基本契約情報やサービス拠点を持っている東京ガスは、こうした「電気とガスの併売」でコストを大きく圧縮できる企業ですので、同様のセット料金プランの提供による光熱費の削減がメリットとして期待できます。同じ条件に置かれている他の都市ガス大手や、すでに多くの顧客を持っている他業種による電力・ガス併売事業への参入のきっかけにもなると考えられます。
地域熱電供給事業にも取り組み
東京ガスグループは現在、41地区の地域冷暖房(小規模な熱供給事業所などを含む)を運営しており、天然ガスを使用したコージェネレーションシステムやボイラーなどを活用して蒸気や冷温水などを作り出し、一定の地域内に供給する地域熱電供給事業を展開しています。東京の新宿や千葉の幕張新都心などがその例です。こうした取り組みでエネルギーの効率的な利用を図り、それまで電気を多く使っていた客を囲いこむ形で、東京ガスがエネルギー全般にわたるサービスを提供しています。そうした動きが今後広がり、電気についても自分でまとめて売るようになってゆけば、東京ガスの収益にも大きく貢献することになります。
東京ガス、家庭向け電力小売り参入を発表のまとめ
以前から電力小売りに参入すると目されていた東京ガスが、家庭向け電力販売への参入を正式に発表したことで、いわゆる「アナウンス効果」は大きく、異業種企業による電力ビジネスへの参入に弾みがついてくることが予想されます。2016年の電力自由化が近づくにつれて、これからどんどん参入を表明する企業も増えてゆくでしょう。また、地域密着であるがゆえに、これまではあり得ないと思われていたエネルギー関連企業同士の組み合わせによる合併や、包括的業務提携などが起きてくる可能性もあります。
完全自由化まで、時間的にはもう限られています。そうした中での東京ガスの発表は来たるべき「大競争時代」の号砲を鳴らしたイメージでとらえられており、エネルギー業界全体の動きが注目されています。