秋田、長崎が洋上風力の拠点へ、新法施行で新たな動き続々と【エネルギー自由化コラム】

秋田、長崎が洋上風力の拠点へ、新法施行で新たな動き続々と【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

丸紅など13社が秋田県で計画している洋上風力発電プロジェクトが正式に事業化されました。国内メガバンク3行などによる融資が内定し、2月中に工事を開始し、秋田港と能代港に合計33基の風力発電施設が設置されます。このほか、秋田県沖では6つの大型洋上風力発電が計画されているのに加え、経済産業省と国土交通省が洋上風力発電を優先的に整備する「促進区域」に長崎県五島市沖を指定するなど、日本もいよいよ本格的な洋上風力発電の時代を迎えそうです。

秋田港と能代港で丸紅などが施設整備へ

秋田港と能代港で洋上風力発電を進めるのは、丸紅など13社で構成する特別目的会社の「秋田洋上風力発電」です。丸紅のほか、大林組、関西電力、中部電力、コスモエコパワー、東北電力グループの東北自然エネルギー、秋田銀行などが出資しました。国内の大型洋上風力発電では初めての本格的な商用運転になります。

秋田港では出力4,200キロワットの着床式風力発電施設を13基設置します。能代港には同じ規模の風力発電施設を20基整備します。最大出力は秋田港が約5.5万キロワット、能代港が約8.4万キロワット。合計すれば一般家庭13万世帯の年間消費量に相当する電力をつくることができます。

稼働は2022年秋ごろになる見込み。発電した電力は国の固定価格買い取り制度を活用し、20年間にわたって東北電力へ1キロワット時当たり36円で販売します。

メガバンク3行が協調融資、生保大手も投資を計画

この計画は秋田県が洋上風力発電の推進を目指して公募し、丸紅が2015年に事業者として選定されました。2020年1月には秋田県が関係水域の占有を許可しています。

総事業費は約1,000億円に上る見込み。この一部をみずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行のメガバンク3社が共同主幹事を務め、協調融資します。日本生命や明治安田生命、第一生命の保険大手3社も計画に投資する考えを明らかにしました。

操業中は能代港に拠点を置き、保守・運転を進める計画。設備の建設を含めて数十人規模の地元雇用が期待できるようです。

丸紅は国際的な環境意識の高まりを受け、新規の石炭火力発電事業を原則として見送る方針です。今後は洋上風力発電など再生可能エネルギーに注力するとしており、「世界の気候変動対策に貢献すべく、再エネ事業に取り組みたい」と意気込んでいます。

秋田沖一般海域では6つの計画が進行

秋田県沖で実際の事業として進み始めたのは、秋田港と能代港だけですが、動いている計画は少なくとも6件あります。政府が2019年4月、海上に風車を建設して発電のために水域を占有するルールを定めた新法を施行したのを受け、一気に海の陣取り合戦が始まった格好です。

秋田県によると、計画は日本風力開発、大林組、住友商事などが進めています。丸紅などの事業と違い、計画場所は港湾外の一般海域になります。場所は能代市など秋田県北部沖に4件、由利本荘市など秋田県南部沖に2件。出力は最大18万キロワットから最大150万1,000キロワットとなっています。

6つの計画は今後、環境アセスメントにかけられます。6カ所すべてが最大規模で整備されたとすれば、合計出力が417万6,000キロワットに達します。海域が重複しているところもあり、すべての計画が実現するかどうかは分かりませんが、日本を代表する洋上風力発電の大基地が誕生することになりそうです。

秋田県沖の洋上風力発電計画

主な事業者
場所
出力(キロワット)
丸紅など秋田港5万5,000
丸紅など能代港
8万4,000
大林組など能代市、三種町、男鹿市沖最大45万5,000
秋田由利本荘洋上風力合同会社秋田市、由利本荘市、にかほ市沖最大100万
ジャパン・リニューアブル・エナジー能代市、八峰町沖最大18万
ウェンティ・ジャパンなど秋田市、潟上市、男鹿市、由利本荘市沖最大50万
日本風力開発八峰町、能代市、三種町、男鹿市沖最大150万1,000
住友商事能代市、三種町、男鹿市沖
最大54万
出典:秋田県資料から筆者作成

地域の新産業に風力発電を期待

秋田県は強い風が安定して吹く場所として知られ、風力発電の適地の1つに数えられてきました。陸上の風力発電施設は2019年3月末現在で230基余り設置されています。出力は約44万キロワット。青森県に次ぐ全国第2位の規模ですが、陸上の適地はなくなりつつあるといわれています。このため、秋田県は洋上に活路を見い出そうとしているのです。

地元では「秋田風作戦」と命名された企業コンソーシアムが2013年に設立されました。約100の企業や団体が勉強会を通じて交流を深めるとともに、風力関連産業への参入を目指しています。風車の部品を製造する地元企業もこの中から誕生しました。

秋田県は人口減少率が6年連続で全国最大というありがたくない状態が続いています。2018年は死亡数が出生数を上回る自然減少率、転出者が転入者を上回る社会減少率とも全国ワーストワン。人口に占める65歳以上の高齢者の割合も36.4%で、全国一高くなりました。風力発電を地場産業に育て、若者の雇用を確保したいところなのです。

秋田県資源エネルギー産業課は「苦境打開のため、風力発電を地域の新たな産業として育成していきたい」と大きな期待をかけています。

長崎五島沖は国の促進区域に指定

一方、長崎県では2019年末、洋上風力発電の促進区域に五島市沖が指定されました。指定は全国第1号で、国が今後、事業者の公募手続きを進め、2021年ごろに選定することになるとみられています。

指定海域は福江島の東約2,700ヘクタール。長崎県が五島市の意見を踏まえ、洋上風力発電の適地として国に情報提供していた海域で、国は気象条件に問題がなく、十分な発電量を確保できると判断しました。

指定区域になると、最大30年間にわたって海域の占有が認められます。発電事業者にとって港湾区域内より投資額が大きくなりますが、資金調達で有利な面が出てきます。地元には発電施設の設置や保守関連業務で雇用創出効果が期待できます。

長崎県は海洋エネルギー産業を新たな基幹産業に育てたい考えです。長崎県新産業創造課は「地元と連携して円滑な事業の実施に力を入れたい」と喜んでいます。

地方創生につながる大きな可能性も

洋上風力発電は海に囲まれた日本にとって、将来性のある再エネといえます。日本風力発電協会は風力発電施設の土台を海底に固定する着床式だけで9,100万キロワット分の潜在力を持つと推計しています。最新型の原子力発電所60~70基分に相当する発電量です。

ただ、洋上風力発電の整備は欧州諸国や中国に大きく後れを取ってきました。世界風力会議の2018年報告書によると、世界の洋上風力発電導入量は2,310万キロワットに達しますが、日本は6.5万キロワットしかありません。海域利用の法整備が遅れたことも一因です。

遠浅の沿岸が少ないのも普及の壁になりそうです。そこで浮上するのが、風力発電施設を海へ浮かべる浮体式の発電所です。中国電力などは海外のプロジェクトに参画し、開発や運営のノウハウを取得しようとしています。

産業のすそ野に広がりがあり、経済波及効果が大きいとされるのも、風力発電の特色です。日本全体で約9万人の新規雇用が過疎地を中心に生まれるとの見方があり、地方創生につながる大きな可能性を秘めています。

この記事を書いた人

高田泰

政治ジャーナリスト

高田泰

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。

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