自由化の進捗や電力先物取引開始など、電力業界動向まとめ【2019年9月版】
この記事の目次
最新の電力小売全面自由化の進捗状況や電力先物取引の開始など2019年8月から9月の電力業界の動向を関係省庁の資料から何点か振り返ってみましょう。
資料において注目すべきポイントや気になる電力業界のニュースについて、エネチェンジを運営するENECHANGE株式会社の顧問である関西電力出身、元大阪府副知事の木村愼作氏に解説してもらいました。
電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について
経済産業省の諮問機関で資源エネルギー庁に置かれた総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会では1.5カ月に1回程度、会議の資料や議事を公開しています。
各種資料とあわせて公開される「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」では、低圧・高圧・特別高圧などの分野別の新電力シェアの推移や卸取引市場の状況などがわかります。
「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」で注目したいポイントは?
販売電力量における新電力のシェアはこれまでほぼ順調に伸びていると言われてきましたが、今回の資料では特に高圧や特別高圧の伸びがかなり厳しい状況であることが読み取れます。
2016年からの動きを見ると、とりわけ高圧ではシェアが上下しつつも右肩上がりで伸びているように見えます。ここからさらに詳しく見ていきましょう。
新電力では、特に高圧で夏・冬の冷暖房需要が多く、負荷率が相対的に低い需要家の比率が大手より高いことは以前の記事でも説明したとおりです。そのため夏と冬はシェアが上がり、その他のいわゆる端境期には下がる傾向があります。
前月からの数字の動きを見てもなかなか新電力シェアがどのように変化しているかがわかりにくいため、季節変動を除いた推移がわかりやすいように、「電力取引の状況(電力取引報結果)」から前年同月との差分を集計し、その推移をグラフにまとめてみました。
出典:電力取引の状況(電力取引報結果)より、エネチェンジが独自に集計・作成
まず、低圧(電灯)のシェアは、長期的に極めて安定して拡大していることがわかります。
一方高圧は、2017年度においてほぼ順調にシェアが拡大していたものが、ここ1年半ほどは伸びが低下し、今年の6月にはついに前年差でマイナスに転じました。
さらに特別高圧では長期間に渡り減少を続け、すでに昨年の夏からマイナスとなっています。特にここ3カ月の落ち込みは大きく、かなり厳しい状況といえるでしょう。
「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」のこちらのページでは最初のグラフで集計されている新電力のシェアのなかに旧一般電気事業者(以下、旧一電)の100%子会社がどのくらい含まれているがわかります。
特別高圧の5月時点の新電力シェアは5.3%ですが、内訳を見ると実際は旧一電の子会社が含まれていますので、それを除くと4.0%しかありません。高圧においてはその状況がより顕著で、新電力シェア22.6%のうち4.0%が旧一電の100%子会社。それ以外の新電力は18.6%です。
このことから、高圧以上の市場はシェアの推移のグラフより更に厳しい状況であり、低圧の健闘はあるものの、全体としては実質的にすでに昨年同時期のシェアを割り込んでいるものと判断できます。
一方で安定している低圧の切り替え状況を詳しく見ると、今年の3月以降で新電力から新電力のスイッチングが増加しています。
このタイミングでは個別の事業者で特に何か大きな動きがあったわけではなく、すでに新電力に切り替えた人が引越しをするタイミングで電力会社を切り替えているのではないかと推測しています。
2018年の住民基本台帳人口移動報告によると、年間の移動数約535万人のうち約167万人と30%以上の人が3月〜4月に住所を移動しています。とくに首都圏が顕著ですが、おそらくすでに新電力にスイッチングをした人が転居するということも増えているでしょう。
全体の新電力シェアは変わりませんが、顧客の流動化として注目すべき動きではないでしょうか。
ベースロード市場の第1回オークション結果を受けて
2020年度受渡分ベースロード市場の第1回オークションが8月9日に、第2回が9月27日に開催されました。
8月の第1回の取引結果を受け、電力・ガス取引監視等委員会が結果をまとめた「ベースロード市場の監視結果について」の資料を公開しています。
「ベースロード市場の監視結果について」で注目したいポイントは?
オークションの結果、約定は少ないものの、エリアプライスを下回る価格となりました。
監視の結果では、大規模発電事業者の供出量はガイドラインを満たしていたとしつつも、価格面では一部グレーな点が指摘されています。指摘部分については、今年度の2回目以降のオークション(2回目は9月27日に実施済み。約定量は合計82.2MWとさらに低調。3回目は11月22日の予定)の結果について重点的に監視していく、としています。
ルールにしたがって供出側のヒアリングなどはしていくものの、改善への決め手にはなりにくいといえるでしょう。
1回目、2回目の実績をふまえて、少しでも外部から疑念をもたれない入札となるよう今後のオークションの監視をしていただくとともに、年度終了後の事後監視や報告に期待したいと考えています。
大手の廉売行為監視機能の強化
電力・ガス取引監視等委員会は9月に小売市場重点モニタリングを開始しました。小売市場重点モニタリングとは電力小売市場の公正な競争の確保のため、旧一電の取り戻し営業をはじめとする大手の廉売行為についてヒアリングをする取り組みです。
同委員会の制度設計専門会合で7月31日に公開された資料を見てみましょう。
「『小売市場重点モニタリング』について」で注目したいポイントは?
不当廉売について競争者からのクレームが申告されるようになります。その情報提供をふまえてヒアリングを行い、制度設計専門会合で報告されます。また、半期に1回程度エリア・電圧区分毎の申告件数・指導件数・情報提供内容の要約などの情報が公表されます。
これまで見えなかった発電・小売部門の取引条件などがこの取り組みで明らかになれば、競争環境の正常化への効果が期待できるでしょう。
電力先物取引市場がスタート
東京商品取引所に電力先物が試験上場、9月17日から取引がスタートしました。取引されているのは東(東京)エリアと西(関西)エリアのベースロード電力(1日24時間)と日中ロード電力(平日12時間)の4種類です。
出典:東京商品取引所
スタートの17日時点での約定は24枚で、内訳を見ると東エリアの日中ロード電力23枚と、東エリアのベースロード電力1枚という結果でした。その後も枚数はわずかですが、ほぼ順調な出だしとなりました。
電力先物の主な役割は電力調達価格の変動へのリスクヘッジです。需要で大きく変化する日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格ですが、気候などによるスパイクのリスクをヘッジすることが期待されます。
しかし、現状として旧一電は先物取引への参加を見送っている状況で、このままでの拡大はなかなか難しいとみられています。
当初は2020年春に予定されていた旧一電の経過措置料金(低圧の規制料金)廃止の結果、燃料費調整制度も廃止される可能性があり、この先物取引の活用で原油価格の変動についてのリスクを回避できるものと考えられていました。
ところが規制料金が当面継続されることが決まり、タイムラグはあるものの、原油価格の変動リスクは現行の燃料費調整制度で吸収できてしまいます。そのため、旧一電を中心に多くの小売事業者がこの市場の活用については消極的であるとみられています。
始まったばかりで先行きはまだわかりませんが、期待を背負ってスタートした市場ですので、この先の動きを見つめていきたいと思います。
容量市場の説明会が盛況で追加開催
2020年7月の容量市場の取引開始に向けて、この春から説明会が開催されてきました。
容量市場とは、電力量ではなく4年後の供給力を取引する市場です。発電事業者の参加は任意ですが、すべての電力小売事業者や送配電事業者は2024年から容量拠出金の支払いが必須となるため、ほぼすべての事業者に関係がある市場といえるでしょう。
説明会開催の希望が多かったようで、秋に向けて3回追加開催されることになりました。1回目と2回目の受付は終了しましたが、3回目は10月17日(申し込み期限は10月3日)に開催されます。ぜひ研究して新しい市場の開設に備えたいですね。
説明会の資料やQ&Aが公開されているので、そちらも見ておくことをおすすめします。
電力業界の動向、次回は10月にお届け予定です
2019年8月から9月の電力業界の動向をまとめて木村氏に聞きました。さらに詳しく知りたい方は記事で紹介した資料の本文もぜひ確認してみてください。
次回は、10月後半に最新状況をお届けする予定です。
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