2019年12月の電力業界動向振り返りと2020年に予想される電力制度の動き【新年特別レポート】
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今回は年明けということで、注目すべき2019年12月の電力業界の動向に加え、2020年に予想される電力制度に関わる動きについて見ていきましょう。
見ておきたい注目の資料をエネチェンジを運営するENECHANGE株式会社の顧問である関西電力出身、元大阪府副知事の木村愼作氏に解説してもらいました。あわせて木村氏による新年特別レポートとして「2020年に予想される電力制度に関わる施策について」をお届けします。
「電力小売全面自由化の進捗状況について」
経済産業省の諮問機関で資源エネルギー庁に置かれた総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会では1.5カ月に1回程度、会議の資料や議事を公開しています。12月26日に公開された最新の「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」の内容について確認しましょう。
2019年9月時点の新電力の販売量シェアは全体で約15.8%。引き続き低圧の堅調な伸びが全体のシェア増加を後押ししています。
これまでの記事同様に「電力取引の状況(電力取引報結果)」の9月の確報から前年同月のシェアとの差分を集計し、その推移をグラフにまとめました。こちらで季節変動を除いた推移を見ていきましょう。
出典:電力取引の状況(電力取引報結果)より、エネチェンジが独自に集計・作成
全体では+0.6ポイント。低圧(電灯)が相変わらず好調です。高圧は+0.5ポイントで4月以来の前年水準を超えるシェアになりました。特別高圧も-1.3ポイントと前年差が縮小しており産業用も若干の明るさが出でくるかもしれません。10月以降の動きに注目ですね。
一般送配電事業者による来年度の調整力公募が終了
電力・ガス取引監視等委員会(以下、監視等委員会)が2019年12月17日に開いた制度設計専門会合にて、一般送配電事業者10社による2020年度向け調整力公募の落札結果が報告されました。
注目したいポイントは2つで、電源Ⅰ´の算定方法が変わり落札が倍増したことと、電源Ⅰ´の隣接エリアからの広域的調達が開始されたことです。
必要量の考え方が変わったことで、前回募集がなかったところも含めて大手10社が電源Ⅰ´を公募。またDR活用で大手以外も入札できるため、成約数は昨年から倍増という結果になりました。
初めて隣接エリアとの広域調達が実施されます。資料で赤字になっているのがエリア外の需要公募の結果で、6つのエリア外調達が成立しました。コスト削減効果などを評価して今後の対応を検討、2021年需給調整市場に向けた準備をしていく考えです。
電力システムのレジリエンス強化の議論の中間とりまとめを公表
災害時の電気の安定供給の確保など、電力システムのレジリエンス強化の議論がまとまりました。総合資源エネルギー調査会・持続可能な電力システム構築小委員会の第3回・第4回の会合が12月に開かれ、「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会持続可能な電力システム構築小委員会中間取りまとめ(案)」として、意見公募を実施中です。会合で議論されていた「電力システムのレジリエンス強化に向けた論点」を資料で確認してみましょう。
a〜gまで、大きく7つの論点がありましたが、ポイントとなるのは託送料金改革と災害に強い分散型グリッドです。
託送料金については今後いろいろな手直しがでてくるでしょう。災害に強い設備にするため、レジリエンスにかかるコストを上乗せする必要もあります。
新しい託送料金制度では国が指針を提示し、送配電事業者はその内容を踏まえた事業計画を作成します。必要な費用を見積もって一定期間の収入上限を設定(レペニューキャップ)する方向で検討が進められています。
台風被害による停電で山間部など復旧が難航した地域において、太陽光などの稼働でレジリエンスを向上させた事例があります。このような状況で分散型エネルギーあらかじめ活用することで、将来的には遠隔分散型グリッドとしてレジリエンスを向上させる考えです。
主要系統から切り離された遠隔分散型グリッドにおいては、一般送配電事業者とは別の新しい配電事業者の参入についても議論されました。その場合も、最終保障供給は一般送配電事業者が確保している調整力を利用して行うのが適当ではないか、とされています。
エネルギー高度化法の2020年度中間評価目標が決定
エネルギー供給構造高度化法で小売電気事業者に課される非化石電源比率2030年44%目標の達成に向け、2020年度の中間評価の目標値が決定しました。非化石証書については販売電力量の9%とすることになりました。
非化石電源比率の現状を見てみると、報告対象の事業者は2018年の実績で59社。うち10社は旧一般電気事業者です。本件は、12月6日と24日の基本政策小委員会作業部会(タスクフォース)で議論がまとまり、12月26日の小委員会でオーソライズされたものです。
2019年度の計画に基づき、2020年度の非化石電源比率の想定を算出すると26.1%になるといいます。化石電源グランドファザリング(特例措置。以下GF)と激変緩和措置を除いた非化石電源比率の目標を31.8%とし、非化石電源比率の低い事業者(特例措置対象事業者)に対しては目標値を一定程度引き下げるGFを設定します。激変緩和措置とは購入されなかった余剰非化石電源相当量を控除する仕組みです。
GFと激変緩和量を差し引くと結果として、目標量に対して各事業者の証書の購入予定量は9%程度となります。
新電力にとっては高度化法達成にコストがかかるのが悩みと言えるでしょう。
また、旧一般電気事業者が証書販売益を小売の値下げ原資とする不当な内部補助が行われるのではないか、という論点で監視についても検討されています。
間接送電権取引の開始以来の取引状況を報告
2019年12月6日の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会で間接送電権取引の開始以来の取引状況が公表されました。
間接送電権とは、エリアをまたぐ電力取引で連系線混雑が発生した際のエリア間の値差を解消する仕組みです。間接送電権を購入することで、取引で生じた値差をJEPXが補填してくれます。
出典:間接送電権の取引状況について(以下、この章の出典はすべて同じ)
オークションの結果は東京中部FC(東向き)がすべて約定している一方、関門連系線は使われませんでした。
すでに契約済みの容量をあけておく「経過措置」による制約はあるものの、関門連携線の商品発行に向けた方策の検討を進めること、とされました
監視等委員会がベースロード市場の監視結果を公表
監視等委員会がべースロード市場の監視結果について公開しています。特に注目したいのは買い手である小売事業者へのヒアリングをまとめた部分です。
小売事業者からは「単価が高い」「公募時期が問題」などのさまざまな評価の声があがりました。
監視等委員会は今後も引き続き市場活性化のために投入量、単価について実績確定後にチェックを実施していく、としています。
FIT法改正の概要がほぼ確定
来年のFIT法改正の指標となる重要な「中間とりまとめ(案)」が2019年12月26日の総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会でオーソライズされ、意見公募されています。
中間とりまとめ(案)では電源の特性によって2つに分けて考える方向で、議論がかたまりました。大規模太陽光、風力といった「競争電源」はFIT制度からFIP(Feed in Premium)制度への移行、家庭用太陽光や地熱などの「地域活用電源」は一定の条件を付けてFIT制度を維持していく方針です。
出典:総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会中間取りまとめ(案)2019年12月
<新年特別レポート>2020年に予想される電力制度に関わる施策について
これまで本稿で見てきたように電力システム改革は今なお進行中であり、2020年においても新たに始まる施策や、検討中の施策が盛りだくさんです。それぞれの施策は相互に関連しているものが多く、整理が難しいところですが、とりあえずザクっとまとめてみました。
まず、既に決まっているものからです。
分野に限らず共通の動き
第3弾電気事業法改正により「送配電分離」が4月から実施されます。大手各社の約款などが分離にともない整理されることになりますので、注意が必要です。
発電分野
- FIT制度の改定内容が確定し、法改正が実施される予定です。来年度からの新たな仕組みについてしっかり理解しておきましょう。
- 容量市場の初めてのメインオークションが夏に予定されています。契約発効は2024年とだいぶ先ですが、発電事業者のみならず小売事業者などすべての事業者に関わる制度ですので、最終的な議論に注目です。
- 非FIT非化石市場の取引が始まります。エネルギー高度化法の初めての中間目標との関連もあり話題になりそうです。2021年度にどんな影響が出るのでしょう。
- ベースロード市場の実取引が初めて実施されるとともに、2019年入札における、量と価格の妥当性が検証されます。
送配電分野
- 需給調整市場が2021年から部分開場されるのを受け、審査・契約などの実務が本格化します。
- 近年の自然災害多発への対応として、スマメのCルートデータ活用が現実的なものになります。本年中に電気事業法改正が実施される方向です。これをきっかけに更に広範囲でのデータ活用が可能になるよう期待したいものです。
小売分野
- 経過措置料金については、新電力シェアを中心として査定が行われ、基準を満たしたエリアについては、来春から規制料金は撤廃されます。東電、関電のエリアで可能性があります。
- エネルギー高度化法の中間目標の達成を求められます。相対、市場で非化石電源を確保する様々な取り組みが期待されます。
- いき過ぎた価格競争を排するために「重点モニタリング」の申請受付が開始されます。
そのほかの課題
本年では完結しない見込みですが、以下のような多くの課題についての議論が深まるのも期待されます。
- 系統費用増強などのための託送制度の改正
- 2023年から導入予定の発電側基本料金についての制度設計
- 「インバランス料金」の補正インデックスなどについての合意形成
など、あまりに盛りだくさんで理解するのはなかなか大変です。今年もこのコラムで適宜解説していきますので、よろしくお付き合いください。
電力業界の動向、次回は2020年2月に更新です
2019年12月の電力業界の動向と2020年に予想される電力制度に関わる動きについて木村氏に聞きました。さらに詳しく知りたい方は紹介した資料を確認してみましょう。
次回は、2月頃に1〜2月の振り返りをお届けする予定です。
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