卒FIT電力買い取りの動き続々と、ビジネスチャンスと受け止める企業も【エネルギー自由化コラム】

卒FIT電力買い取りの動き続々と、ビジネスチャンスと受け止める企業も【エネルギー自由化コラム】
電力自由化ニュース

2009年の余剰電力買取制度スタート時点から太陽光発電の電力を売電していた世帯の契約が2019年度末で終了(卒FIT)してしまった後の「卒FIT電力」を買い取ろうとする動きが活発になってきました。電力大手だけでなく、新電力や関連企業が相次いで計画や構想を発表しています。詳細をお伝えします。

電力の固定価格買取制度(FIT)が終了した卒FIT電力を買い取ろうとする動きが活発になってきました。再生可能エネルギーの利用促進、新たなビジネスチャンスの開拓など理由はさまざまですが、電力大手だけでなく、新電力や関連企業も相次いで計画や構想を発表しています。

東北電力は社長会見で3つのサービスを発表

「FIT期間が満了した太陽光発電設置家庭の余剰電力について、3つのサービスを新たに提供したい」。東北電力の原田宏哉社長は11月末の記者会見で2019年11月にスタートさせる新サービスを発表しました。

サービス名は「ツナガルでんき」。サービス内容は

  1. 卒FITの余剰電力を引き続き買い取る
  2. 余剰電力をすべて自家消費したい家庭には、蓄電池やエコキュートの設置を提案する
  3. 消費し切れなかった電力を東北電力がいったん預かり、必要になったら返す

-の3つを柱にしています。

新契約の買取価格や申し込み方法などサービスの詳細は、2019年6月ごろにあらためて発表する計画。東北電力は「エネルギーの多様化を図る国の方針に合わせるとともに、卒FIT電力の活用に新たなビジネスモデルを構築する狙いがある」と語りました。

FITスタートで全国322万戸が太陽光発電を設置

出力10キロワット未満の住宅用太陽光発電の固定価格買い取りは2009年、余剰電力買取制度として始まりました。2011年の東日本大震災で再生可能エネルギーに対する関心が一気に高まると、翌2012年から制度を充実させたFITがスタートしました。

余剰電力買取制度当時の買取価格は1キロワット時当たり48円。政府が再生可能エネルギーの普及を目指して家庭用電気料金のざっと2倍に設定しました。FITスタート時点の2012年度は少し下がりましたが、それでも1キロワット時当たり42円の高価格になっています。

契約時の固定価格のまま一定期間、電力大手が買い取ってくれるわけで、初期投資が必要なものの、設置家庭に一定のリターンが見込めます。その結果、住宅用の太陽光発電設備は急速に普及しました。マーケット調査会社富士経済は太陽光発電を設置した家庭を2018年度、全国で322万戸と推計しています。

2019年10月で全国37万戸が卒FITに

ところが、住宅用太陽光発電の固定価格買取期間は10年間です。余剰電力買取制度のスタートと同時に契約した家庭は、2019年10月末で契約が切れます。経済産業省は全国37万戸が契約切れを迎えると見込んでいます。

電力大手に買取義務がなくなったとしても、個別に交渉して新契約を結ぶことは可能です。しかし、電力大手側が応じなければ、余剰電力が行き場を失うことになりかねません。これが「電力の2019年問題」です。

これではせっかく発電された電力が無駄になりかねないばかりか、太陽光発電の普及に水を差すことになります。このため、卒FIT電力に対する電力大手の対応が焦点になっていました。

東北以外の電力大手も続々と買い取りの意向

岡山県西粟倉村の住宅に設置された太陽光発電。卒FIT後の買い取りに乗り出す企業が相次いで登場してきた(筆者撮影)
卒FIT電力の買い取りを続ける考えを明らかにしたのは、東北電力だけでありません。北陸電力中部電力関西電力九州電力沖縄電力もそれぞれ、買い取りの意向を表明しています。電源の低炭素化、蓄電システムの販売など掲げた狙いもさまざまです。
卒FIT電力に対する電力大手の主な対応

東北卒FIT電力向けの新サービスで買い取りと関連サービス提供
北陸卒FIT電力を引き続き購入
中部イオンと提携して買い取った電力量に応じ、WAONポイントを付与
関西卒FIT電力を引き続き購入
九州卒FIT電力の買取プランを2019年に発表する方針
沖縄卒FIT電力を引き続き購入

出典:各社ニュースリリースなどから筆者作成

いずれも新しい買い取り価格など詳細が決まるのは年明け以降としていますが、住宅用太陽光発電の固定価格は2018年度で1キロワット時当たり26円まで下がりました。これまでのような高単価での買い取りは期待できそうもありません。

ただ、伊藤忠商事と連携して卒FITを見据えた蓄電システム専用の電気料金プランの営業を始めた東京電力ホールディングスグループのトレンディのような例も出ています。電力自由化で競争が激化する中、電力大手にとって卒FIT家庭が魅力ある市場と映っているのかもしれません。

イオンと中部電力がユニークなプラン

電力買取でユニークなプランを打ち上げたのは中部電力とイオンです。中部電力が打ち出す「これからデンキ」の新サービスの1つで、中部地方の卒FIT家庭が余剰電力を中部電力に提供すると、提供された電力量に応じてイオングループの電子マネー「ワオンポイント」が提供されます。ワオンポイントの交換比率は未定です。

これからデンキは顧客参加型の電力取引サービスで、個々の家庭が太陽光発電で作った電力を別の時間に使ったり、離れて暮らす家族とシェアしたりすることを想定しています。提供された電力はイオングループが中部地方で営業するマックスバリュなど1,200店で使用する計画です。

イオンは「脱炭素ビジョン2050」を策定し、2050年までに店舗から出る温室効果ガスをゼロ、2030年までに2010年比35%減にする目標を掲げています。イオンは「卒FITの電力を脱炭素の目標達成に有効活用していきたい」としています。

丸紅新電力は新会社で買い取り参入へ

新電力や関連企業にもさまざまな動きが出てきました。丸紅新電力は電力向けシステム開発のパネイルと新会社の丸紅ソーラートレーディングを設立、卒FIT電力の買い取りを始める考えを明らかにしました。

買い取りサービスは全国を対象にする予定。これに伴い、代理店となるパートナー企業の募集を11月から始めました。集めた電力は卸電力取引所などへ販売する計画で、将来は仮想発電所の構築などIT技術を活用した分散電源向けのサービスも視野に入れています。

丸紅ソーラートレーディングは「パートナー企業については既に問い合わせが多数来ている。パネルメーカーなどは新たなビジネスチャンスの到来と受け止めているようだ」と早くも手ごたえを感じている口ぶりでした。

NTTスマイルエナジーとエネットは卒FIT電力を再販売

NTT西日本とオムロンが出資し、太陽光発電の遠隔監視サービス「エコめがね」を展開するNTTスマイルエナジーも、卒FITの余剰電力買い取りに参入します。買い取った電力は新電力大手のエネットを通じ、再生可能エネルギーを希望する顧客向けに販売されます。

卒FIT家庭にはエコめがねを提供し、なるべくお得に自家消費してもらったうえで、余剰電力を買い取る方針。対象地域は沖縄電力管内を除く全国で、NTTスマイルエナジーは「買取額などサービスの詳細を早急に詰めたい」と話しました。

このほか、電力の流れを供給、需要の両側から制御できるスマートグリッドや太陽光発電事業に取り組むスマートテックも、東京、東北、中部、関西、中国、九州の6電力管内で買い取りを始める考えです。

蓄電池販売などが新たなビジネスチャンスに

参入企業サービス内容
東北電力余剰電力の買取の継続、自家消費を希望する過程への蓄電池・エコキュート設置の提案、消費しきれなかった電力を一度預かり必要になったら返す
トレンディ/伊藤忠蓄電池システム専用の電気料金プランを開始
中部電力/イオンイオングループの電子マネー「ワオンポイント」の提供
丸紅ソーラートレーディング集めた電力を卸電力取引所などに販売する計画
NTTスマイルエナジー/エネット再生可能エネルギーを希望する顧客へ再販売

脱炭素は既に世界の潮流となっています。日本も先進国の一員としてその流れを止めることはできません。卒FIT電力の有効活用は社会全体で進めなければならない課題だといえるでしょう。

さらに、卒FIT家庭が増えれば、自家消費を進めるための蓄電池など新たな需要が生まれます。電力業界の前に新しい市場が誕生しようとしているわけです。このため、今後も買い取りに乗り出す企業が増えそうな状況です。

高田泰(政治ジャーナリスト)

高田泰(政治ジャーナリスト)

関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆している。
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