「昭和の遺物」水力発電に再び脚光、電力大手の新設計画が全国各地で続々と【エネルギー自由化コラム】
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「昭和の遺物」とみられていた水力発電が再び、脚光を浴びています。発電量自体はそれほど大きくありませんが、再生可能エネルギーの中では電力供給が安定し、運転経費を安く抑えられることから、東北電力や関西電力など電力大手が相次いで、建設に乗り出しているのです。ただ、建設の適地は少なくなり、大規模開発には地元住民の反発を解消しなければなりません。このため、既存施設を更新するケースも見られます。
東北電力の鹿瀬発電所、全面改修で運転再開
以前は6基の水車式発電機を置き、最大で4万9,500キロワットの発電能力がありました。これを発電効率が高い立軸バルブ水車2基に改めています。有効落差も以前の22.43メートルを22.53メートルにしました。その結果、使用する水量は毎秒270立方メートルで以前と変わらないものの、最大出力は5万4,200キロワットに増えています。
工事に際し、ダムや取水口の設備を再利用するとともに、古い設備の取り壊しで発生したコンクリートを活用しました。阿賀野川流域では2013年、最大出力6万1,800キロワットの豊実発電所が全面改修を経て運転再開しており、2例目になります。
東北自然エネルギーは山形県に新設計画
東北電力グループの東北自然エネルギーは山形県小国町の玉川で玉川第二発電所の整備を進めています。使用水量は既設の玉川発電所直下に新設する堰から毎秒5立方メートルと、玉川発電所の放水量毎秒最大20立方メートルを合わせた毎秒最大25立方メートルです。
玉川は水量が豊富なうえ、勾配が大きく、水力発電に適した河川です。有効落差は66.8メートルで、最大出力1万4,200キロワット。2016年6月に着工し、2019年9月の営業運転開始を予定しています。
東北電力は国内の電力会社では最も多い209の水力発電所を東北地方と新潟、長野の両県に持っています。合計出力は244万キロワット。東北電力は「大規模な新規開発は難しくなりつつあるが、更新などで水力発電を最大限に活用したい」と前向きな考えを示しました。
中部電力は長野県に一般家庭8,800世帯分の発電所
中部電力は5月、長野県飯田市と阿智村の黒川、小黒川で清内路水力発電所の建設に着工しました。出力5,600キロワットの流れ込み式水力発電所で、2022年6月の営業運転開始を予定しています。
飯田市の大平黒川堰堤と阿智村の小黒川堰堤から導水路トンネルを阿智村の発電所まで引きます。最大使用水量は毎秒2.5立方メートルで、有効落差は273メートル。中部電力は一般家庭8,800世帯分に相当する年間2,900万キロワット時の発電量を想定しています。
二酸化炭素の年間削減量は1万3,000トン程度。中部電力は「再生可能エネルギーの推進に向け、適地があれば水力発電を推進したい」と話しました。
関西電力は富山県で廃止施設を利用して発電所
関西電力は2017年、富山県黒部市宇奈月町の弥太蔵谷川に水力発電所を建てることを決めました。弥太蔵谷川発電所(仮称)で、富山県富山市の富山地方鉄道が1985年に廃止した発電所の導水路、沈砂池などを活用します。今後、建設に必要な手続きを済ませ、2021年4月に着工し、2022年末に営業運転を始める計画です。
最大使用水量は毎秒1.39立方メートル。138.3メートルの有効落差を生かし、1,520キロワットの最大出力とする計画です。年間発電量にすると1,010万キロワット時になり、一般家庭3,200世帯分に相当します。
関西電力は、このほかに弥太蔵谷川と同じ黒部川水系にある黒部市の黒部川第二発電所も2021年までに出力を4%増強し、7万5,000キロワットにする計画です。
岐阜県飛騨市河合町では、小鳥川に設けられた既存の下小鳥ダムに下小鳥維持流量発電所(仮称)を新設します。河川環境維持のために常時放流する水を発電に利用するもので、出力480キロワット。2019年に着工し、2021年の営業運転開始を目指しています。関西電力は「目標達成に向け、水力発電の増強を進めたい」としています。
黒部川電力は新潟県で2万7,000世帯分の電力生産
北陸電力グループの黒部川電力は近く、新潟県糸魚川市小滝の姫川で新姫川第六発電所の建設工事に着手します。既存の姫川第六発電所に隣接して建設し、姫川第六発電所の取水設備を有効活用して発電する計画です。導水路や水槽、水圧管路、放水路、放水口などは新設予定で、2022年の営業運転開始を目指しています。
出力は2万7,500キロワット。年間発電量にすれば、一般家庭2万7,200世帯分に相当する約8,500キロワット時になる見込みです。黒部川電力は「これにより、二酸化炭素の年間排出量を約5万トン削減できる」とみています。
黒部川電力は大正時代の1923年に創業して以来、一貫して水力発電事業に取り組んできました。現在は新潟県に4カ所、長野県に1カ所の水力発電所を持ち、電力供給を進めていますが、エネルギー自給率向上などの観点から新設を決めました。
国交省の手続き簡素化が、計画を後押し
国土交通省は2013年、河川環境や河川使用者に影響が出ないことを条件に、水力発電所の新設や増強に必要な取水量を増やす手続きを簡素化しました。2011年の東日本大震災を受けた措置で、これにより電力各社が整備に着手しやすくなったのです。
政府は2030年の電源構成で、水力発電の比率をほぼ横ばいの8.8~9.2%程度としていますが、中長期指針となるエネルギー基本計画では設備の老朽化を念頭に置き、「既存ダムへの発電設備設置や利用中の設備更新などによる出力増強を促進する」と明記しました。
原子力発電に対する国民の不安が解消されず、地球温暖化の元凶となりかねない火力発電の増強に批判の声が高まる中、再生可能エネルギーの1つに位置づけられる水力発電を有効活用しようと考えているわけです。
さらに市場拡大を予測する民間調査も
水力発電には燃料費がかかりません。原発や石炭火力などに比べると、発電所1つひとつの発電量は小さくなりますが、河川に水がある限り、発電を続けられ、稼働率が上がれば上がるほど電力会社の収益を底上げします。ただ、適地は開発しつくされ、巨大ダムの新設は難しいのが現状です。
そこで、電力大手が注目しているのは、出力3万キロワットに満たない中小規模の水力発電所です。国の固定価格買取制度(FIT)では、中小水力発電所の電気を1キロワット時当たり20~34円で買い取っています。
雨が多く、急勾配の川が多い日本の地形は水力発電に適しています。日本がまだ貧しかった昭和の時代に経済成長を支えたのが、純国産エネルギーの水力発電でした。原発事故を経験し、地球温暖化が進む今、電力大手が再び、水力発電に目を向け始めたのです。