環境価値の購入ができる「J-クレジット」とは?基本情報や意味を解説
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「環境に優しい電気を使いたい」「再生可能エネルギーから発電された電気が使えるプランにしたい」と考えたときに見かける「J-クレジット制度」。一体どのような制度なのか、ご存知でしょうか?
この記事では、「J-クレジット制度」の意味や、購入すると実現できること、どんなことに活用できるのかなど、詳しく解説していきます。
J-クレジット制度とは?
J-クレジット制度とは、省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2を含む温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。
出典:J-クレジット制度
「J-クレジット制度」の前身として、経済産業省主導の「国内クレジット制度」と、環境省主導の「オフセット・クレジット(J-VER)制度」の2つの制度があります。
2013年にこの2つの制度が統合されたことによって、新たに「J-クレジット制度」ができ、国が運営を行うようになったのです。「J-クレジット制度」によって創出されたクレジットを購入すると、以下のような活用方法があります。
このJ-クレジット制度には、「再生可能エネルギー (発電)由来クレジット」「再生可能エネルギー (熱)由来クレジット」「省エネルギー由来クレジット」「森林吸収 由来クレジット」の4種類があります。
- 再生可能エネルギー (発電)由来クレジット
- 太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギー(再エネ)を由来としたJ-クレジットです。
- 再生可能エネルギー (熱)由来クレジット
- バイオマス・地熱などの再生可能エネルギー(再エネ)を由来としたJ-クレジットです。
- 省エネルギー由来クレジット
- ボイラーの導入や照明設備の導入など、燃料転換や高効率化のため省エネ設備を導入することを由来としたクレジットです。
- 森林吸収 由来クレジット
- 森林を健全に保つことで発生したCO2吸収量をクレジットとして報告することができます。森林経営活動や植林活動により、得ることが可能です。
「J-クレジット制度」の前身となる2つの制度は?
「J-クレジット制度」の前身には、「国内クレジット制度」と「オフセット・クレジット(J-VER)制度」という2つの制度があります。
この2つの制度は、どのようなものなのでしょうか?ひとつずつ見ていきましょう。
国内クレジット制度とは?
「国内クレジット制度」とは、中小企業などが省エネ化を進めてCO2排出量を削減し、減らした分のCO2排出量を大企業などに買い取ってもらう仕組みです。この仕組みが成立することによって、削減分を買い取った大企業は自主的に定めた削減目標の達成に活用でき、中小企業側は一定の収入を得ることができます。
中小企業などの排出削減対策を推進するため、2008年3月28日に改定案が閣議決定された京都議定書目標達成計画の下、運用が開始されました。
オフセット・クレジット(J-VER)制度とは?
「オフセット・クレジット(J-VER)制度」とは、国内での排出削減・吸収をより一層促進するために、国内にて実施されているプロジェクトでの削減・吸収量をオフセット用のクレジット(J-VER)とする認証制度です。自らの排出量をクレジットなどからなる他の場所の削減量で埋め合わせて相殺する「カーボン・オフセット」の仕組みを活用します。
2008年11月からスタートし、国際規格のひとつであるISOに準拠した信頼性の高い認証制度として運営されていました。
2つの制度が統合し、2013年4月からはじまった「J-クレジット制度」
2013年3月に終了した国内クレジット制度とオフセット・クレジット(J-VER)制度が統合され、2013年4月から「J-クレジット制度」がはじまりました。この制度は、経済産業省・環境省・農林水産省により運営されています。
以前までの国内クレジットでは自主行動計画に参加していると利用することができない制度でしたが、プロジェクト実施者の対象に制限がなくなったことが大きな変更点です。
「J-クレジット制度」は、2030年までの制度です。2030年以降については、未定となっています。
「J-クレジット」でできること
創出者(売る側)ができること
「J-クレジット」を売る側である創出者は、以下のメリットがあります。
- ランニングコストが低減できる
- 省エネ機器導入や森林経営、再生可能エネルギーの活用などの省エネルギー対策の実施により、ランニングコストの低減やクリーンエネルギーの導入を図ることが可能になります。
- クレジットの売却益を得ることができる
- 設備投資の一部をクレジットの売却益によって補い、投資費用の回収や更なる省エネ機器に活用することができます。
- 地球温暖化対策への取り組みに対するPR効果が期待できる
- 排出削減・吸収プロジェクトを自主的に行うことによって、温暖化対策に積極的な企業・団体としてのPR効果を期待することが可能になります。
- 新しいネットワークを作ることができる
- 創出したクレジットが、例えば、地元に縁の深い企業や地方公共団体によって地産地消的に利用されるなど、新しいネットワークの構築につながります。
- 組織内の意識改革・社内教育につながる
- 「J-クレジット制度」に参加すると、省エネの取り組みが具体的な数値としても認識することができるため、メンバーの取り組み意欲の向上や、意識改革にもつながります。
活用者(買う側)ができること
「J-クレジット」を買う側である活用者には、以下のメリットがあります。
- 環境貢献企業としてPRできる
- クレジットの購入を通じて、日本各地にある森林の保全活動や中小企業などの省エネ活動を応援することができるので、PRにもつながります。
- 企業評価の向上が期待できる
- 温対法・省エネ法の報告への活用や、各種企業評価調査などにおいてクレジット購入のPRができ、企業の評価向上にもつなげることが可能です。
- 製品・サービスの差別化ができる
- 製品・サービスにかかるCO2排出量をクレジットにより相殺することによって、他の製品やサービスとの差別化・ブランディングに利用することができます。
- ビジネス機会の獲得・ネットワークの構築ができる
- クレジットを購入することによって構築された企業や地方公共団体との新しいネットワークに活用することができ、ビジネスモデルの創出やビジネス機会の獲得につなげることが可能です。
クレジット種別による活用先一覧
J-クレジットの購入者は、クレジットの種別によって、環境貢献企業や企業評価の向上の期待、製品・サービスの差別可などが可能です。
クレジット種別による活用先は以下の通りです。
- 温対法での報告(排出量・排出係数調整)
- 温対法の調整後温室効果ガス排出量や、調整後排出係数の報告に利用できます。
- 省エネ法での報告(共同省エネルギー事業に限る)
- 省エネルギープロジェクトによるクレジットを省エネ法の共同省エネルギー事業の報告に利用可能です。(省エネルギープロジェクト以外で創出されたクレジットは利用できません)
- カーボン・オフセットでの活用
- 日常生活や企業などの活動で、必ず発生してしまうCO2(=カーボン)を、森林による吸収や省エネ設備への更新により創出された他の場所の削減分で埋め合わせ(=オフセット)するがカー取り組みボン・オフセットです。
地球環境への貢献をPRしたり、企業のCSR活動(環境・地域貢献)、製品・商品のブランディングに活用できます。 - CDP質問書での報告
- CDPは、企業の環境情報を投資家に向けて行うことを目的とした、国際的な非営利団体です。気候変動などに関わる事業のリクについて、企業がどのような対応をしているのか、質問形式での調査・評価をした上で公表しています。再エネ発電由来のクレジットをCDP質問書に再エネ電力の調達量として報告します。
- RE100での報告
- 再エネ発電由来のクレジットをRE100で再エネ電力の調達量として活用できます。
- ASSET事業の目標達成
- ASSET事業(先進対策の効率的実施によるCO2排出量大幅削減事業設備補助事業)における削減目標達成に利用可能です。
- 低炭素社会実行計画の目標達成
- 2020年のCO2削減の数値目標を設定した低炭素社会実行計画の目標達成に利用が可能です。
再生可能エネルギー (発電)由来クレジット | 再生可能エネルギー (熱)由来クレジット | 省エネルギー 由来クレジット | 森林吸収 由来クレジット |
|
---|---|---|---|---|
温対法での報告 (排出量・排出係数調整) | ○ | ○ | ○ | ○ |
省エネ法での報告 (共同省エネルギー事業に限る) | × | × | ○ ※1 | × |
カーボン・オフセットでの活用 | ○ | ○ | ○ | ○ |
CDP質問書での報告 | ○ ※1 | 未定 | × | × |
RE100での報告 | ○ ※1 | × | × | × |
ASSET事業の目標達成 | ○ | ○ | ○ | ○ |
低炭素社会実行計画の目標達成 | △ ※2 | △ ※2 | △ ※2 | × |
活用方法によっては、使用できるクレジットの種類が限られており、注意が必要です。(※1)報告可能な値はプロジェクトごと、認証回ごとに異なります。(※2)低炭素社会実行計画に参加している事業者が創出したクレジットは対象外です。
制度記号が「JCL」のクレジットが使用可能です。詳しくはこちらをご確認ください。
出典:J-クレジットの活用方法 | J-クレジット制度
「J-クレジット制度」、現在の登録・認証状況は?
2018年10月4日時点での「J-クレジット制度」のプロジェクト登録件数・クレジット認証回数の推移は、以下のとおりです。
- J-クレジット制度登録プロジェクト数(移行含む)
出典:J-クレジット制度の概要 | J-クレジット制度事務局
移行分を含めると、登録プロジェクト件数は742件、クレジット認証回数は延べ556回にものぼります。
J-クレジット制度登録プロジェクトの認証量は、年々着実に増加していることがわかります。また、2015年の第14回認証委員会以降、旧制度からの移行プロジェクトの認証回数が顕著に増えていることが見てとれるでしょう。
第14回認証委員会以前に取引されていたクレジットの大半は「京都クレジット」という京都議定書で定めされた手続きにより発行されたクレジットでした。しかし、2015年11月までで償却期間が終了し活用できなくなってしまったため、J-クレジット制度への問い合わせや販売が大幅に増加したのです。
登録プロジェクト・認証クレジットの内訳は以下のようになっています。
- 登録プロジェクトの内訳
- 承認クレジットの内訳
出典:J-クレジット制度の概要 | J-クレジット制度事務局
登録プロジェクトの685.3万トンのうち、547万トンが、承認クレジットの271.3万トンのうち、236.6万トンが太陽光発電となっています。
環境配慮契約法に基づく基本方針の閣議決定がなされました。それによって、製品やサービスなどを調達する際に環境負荷ができるだけ少なくなるような工夫をしたグリーン契約(環境配慮契約)が推進されています。
この基本方針は、2019年2月8日に変更の閣議決定がされています。J-クレジットは、今後ますます増加し、活動の更なる拡大が期待できそうです。
なお、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)の設備で発電し、電力事業者に買い取られた電力は対象にはなりません。
今後ますます注目の集まる「J-クレジット制度」。CO2を削減しながら新たなPR効果を!
「J-クレジット制度」について解説をしました。
「J-クレジット制度」を利用すると、創出者(売る側)がクレジットの売却利益を得るだけではなく、地球温暖化への取り組みについてのPRや新しいネットワークの構築などに活用することができるようになるのです。
近年、増加傾向にはありますが、再生可能エネルギーや省エネへの注目が集中することに合わせて、ますます活用されるようになるでしょう。
この記事を書いた人